万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

419.巻四・725・726:天皇に献(たてまつ)る歌二首 大伴坂上郎女、春日の里に在りて作る。

天皇:聖武天皇 春日の里:坂上郎女、の私宅のあった地。坂上と同所か。721番歌参照。 725番歌 訳文 「かいつぶりがもぐって姿を隠す池の水よ。「心」を持つお前に思いやりの心があるのなら、君をひそかにお慕い申し上げる私のせつない心をそこい映し出して…

418.巻四・723・724:大伴坂上郎女、跡見(とみ)の庄(たどころ)より、宅(いへ)に留まれる女子(むすめ)、大嬢に賜ふ歌一首 あわせて短歌

跡見(とみ):奈良県桜井市東方の地か。大伴氏私領の田地があった。坂上郎女は家刀自として田の神を祭るためにその地へ行ったか。 宅:坂上の家。 賜ふ:親(上)から子(下)に与えるという意。 723番歌 訳文 「常世の国へ私が行ってしまうわけでもないの…

417.巻四・722:大伴宿禰家持が歌一首

722番歌 訳文 「これほど恋い焦がれてなんかいずに、いっそ石や木にでもなってしまえばよかったのに。なんの物思いもせずに」 書き下し文 「かくばかり 恋ひつつあらずは 石木(いはき)にも ならましものを 物思はずして」 88番歌その他、類歌が多い。 石木…

416.巻四・721:天皇に献る歌一首 大伴坂上郎女、佐保の宅に在りて作る

天皇:聖武天皇 佐保の宅:大伴氏宗家の居宅。528番歌左注参照。郎女が坂上でなく佐保にいたのは大伴家の実質的な家刀自の立場からであろう。より私的な内容の献上歌725番歌では「春日の里」と注記のある点が注目される。 721番歌 訳文 「何しろ山住みの身の…

415.巻四・714~720:大伴宿禰家持、娘子に贈る歌七首

714番歌 訳文 「心では思いつづけているけれど、逢うきっかけのないままに、離れてばかりいて嘆いている私です」 書き下し文 「心には 思ひわたれど よしをなみ 外のみにして 嘆きぞ我がする」 691、692番歌の相手と同じ人に贈った歌であろう。次歌で坂上大…

414.巻四・711~713:丹波大女娘子(たにはのおほめをとめ)が歌三首

丹波大女娘子:伝未詳、丹波は国名で、やはり遊行女婦か。 711番歌 訳文 「鴨の鳥が浮かんでいるこの池に木の葉が散って浮くように、うきうきとうわついた気持でお慕いするのではありませんよ」 書き下し文 「鴨鳥の 遊ぶこの池に 木の葉落ちて 浮きたる心 …

413.巻四・710:安都扉(あとのとびら)娘子が歌一首

安都扉(あとのとびら)娘子:伝未詳、安都扉宿禰年足などの一族か。 710番歌 訳文 「空をわたる月の光でたった一目だけ見た人、その方のお姿が夢の中にはっきり見えました」 書き下し文 「み空行く 月の光に ただ一目 相見し人の 夢にし見ゆる」 月の縁で前…

412.巻四・709:豊前(とよのみちのくち)の国の娘子、大宅女(おほやけめ)が歌一首

犬養 孝氏の本を引用します。 47 路たづたづし(709番歌書き下し文) 「夕闇は 路たづたづし 月待ちて 行かせ吾背子(わかせこ) その間にも見む」 「この歌は、、豊前の国、今の福岡県ですね。豊前の国大宅女という人の歌なんです。 夕闇というと、月の出る…

411.巻四・707・708:粟田女娘子(あはたのめをとめ)、大伴宿禰家持に贈る歌二首

粟田女娘子:伝未詳、機智に富む歌柄は遊行女婦を思わせる。 707番歌 訳文 「胸の思いを晴らす手だてもわかないままに、片垸(かたもい)ならぬ「片思」のどん底で、私は恋する人として沈んでいます」 書き下し文 「思ひ遣る すべの知らねば 片垸(かたもい…

410.巻四・705・706:大伴宿禰家持、童女に贈る歌一首と童女が来報(こた)ふる歌一首

童女:成年を迎える以前の少女。誰ともわからないが、巻四で家持の方から歌を贈った相手は、家持自身にとって皆重要な意味を持った女性であったらしい。 705番歌 訳文 「一人前にはねかずらを、いま頭に飾っているあなたを夢に見て、いっそうせつなく心の中…

409.巻四・703・704:座部麻蘇(かむなぎべのまそ)娘子が歌二首

座部麻蘇(かむなぎべのまそ)娘子:伝不詳 703番歌 訳文 「あなたにお目にかかったその日を思うにつけ、慕わしさに涙があふれ、今日までずっと袖の乾くいとまもありません」 書き下し文 「我が背子を 相見しその日 今日までに 我が衣手は 干(ふ)る時もな…

408.巻四・701・702:河内百枝娘子、大伴宿禰家持に贈る歌二首

河内百枝娘子:伝不詳、「河内」は娘子の出身国名か。以下国や氏の名に字らしいものを続けた娘子の歌が集められているが、遊行女婦と見られる女性が多い。 701番歌 訳文 「ほんのちらっとだけあの方と目を合わせて胸をときめかしたが、どんなつでに、いつま…

407.巻四・700:大伴宿禰家持、娘子(をとめ)が門(かど)に至りて作る歌一首

700番歌 訳文 「こんなにしてまでもやって来て、やはり空しく帰ることになるのであろうか。近くもない道のりを難儀しながら参上して来て」 書き下し文 「かくしてや なほや罷(まか)らむ 近からぬ 道の間を なづみ参ゐ来て」 拒まれることを予測しながらわ…

406.巻四・697~699:大伴宿禰像見(かたみ)が歌三首

697番歌 訳文 「私に聞えよがしに言って下さいますな。耳に入るその名は、私がちぢに乱れて思いつづけている、まさにその人なのですよ」 書き下し文 「我が聞に 懸けてな言ひそ 刈り薦(こも)の 乱れて思ふ 君が直香(ただか)ぞ」 女の立場に立つ歌。名を…

405.巻四・696:石川朝臣広成が歌一首

696番歌 訳文 「奈良の家で待つ人への思いが薄らぐなんてことがあるものか。河鹿の鳴くこの泉の里に来て、年もたってしまったのだもの」 書き下し文 「家人に 恋過ぎめやも かはづ鳴く 泉の里に 年の経ぬれば」 家人:特に妻を意識している。 泉の里:久邇京…

404.巻四・694・695:広河女王が歌二首 穂積皇子の孫女、上道王が女(むすめ)なり

694番歌 訳文 「刈っても刈っても生い茂る恋草を、荷車七台に積むほど恋の思いに苦しむのを、私自身の心から出たことなのです」 書き下し文 「恋草(こひくさ)を 力車に 七車 積みて恋ふらく 我が心から」 恋を草に譬え、車を持ち出して恋の重荷にたえかね…

403.巻四・693:大伴宿禰千室が歌一首 いまだ詳らかにあらず

いまだ詳らかにあらず:古歌か新作か未詳、の意。 693番歌 訳文 「こんなに恋いつづけてばかりいるのだろうか。秋津野にたなびく雲がいつしか消えるように、恋の苦しさが消えるということもなくて」 書き下し文 「かくのみし 恋ひやわたらむ 秋津野に たなび…

402.巻四・691・692:大伴宿禰家持、娘子に贈る歌二首

娘子:離絶中であるため(727番歌題詞参照)はばかって名を伏せたもので、実は大嬢を心の底において娘子と言ったと見ることも可能か。 691番歌 訳文 「大宮仕えの女官はたくさんいるが、私の心をとらえて離さないのは、そんな人よりもあなたなんだよ」 書き…

401.巻四・690:大伴宿禰三依、別れを悲しぶる歌一首

別れを悲しぶる:離れ離れでいることを悲しむ意。 690番歌 訳文 「別れの辛さに、月は明るく照っていても闇に包まれたような気持で泣く涙が着物を濡らした。乾かしてくれるやさしい人もそばにいないままに」 書き下し文 「照る月を 闇に見なして 泣く涙 衣濡…

400.巻四・683~689:大伴宿禰坂上郎女が歌七首

683番歌 訳文 「他人の噂のこわい国がらです。だから思う気持を顔色に出してはいけません、あなた。たとえ思い死をするほど苦しくっても」 書き下し文 「言ふ言の 畏き国ぞ 紅の 色にな出でそ 思ひ死ぬとも」 恋歌に自らの死を口にする例は万葉後期に多いが…

399.巻四・680~682:大伴宿禰家持、交遊と別るる歌三首

交遊:男性の友人の意。 680番歌 訳文 「ひょっとしたら他人の中傷を耳にされたからではあるまいか。こんなに待ってもあの方は、一向にいらっしゃらない」 書き下し文 「けだしくも 人の中言 聞かせかも ここだく待てど 君が来まさぬ」以下三首、いずれも女…

398.巻四・675~679:中臣郎女、大伴宿禰家持に贈る歌五首

675番歌 訳文 「佐紀沢に生い茂る花かつみではないが、かつて味わったこともないせつない恋をしています」 書き下し文 「をみなえし 佐紀沢に生ふる 花かつみ かつても知らぬ 恋もするかも」 秋の七草のひとつの「オミナエシ」、万葉名「をみなえし」、オミ…

397.巻四・672・673・674:安倍朝臣虫麻呂が歌一首と大伴坂上郎女が歌二首

672番歌 訳文 「しつたまきのように物の数でもない私だが、こんなつたない身で、どうしてこうもせつなくあなたを恋いつづけるのであろうか」 書き下し文 「しつたまき 数にもあらぬ 命もて 何かここだく 我が恋ひわたる」 坂上郎女に贈った歌。親しい男女の…

396.巻四・670・671:湯原王が歌一首と和ふる歌一首作者を審(つばひ)らかにせず

670番歌 訳文 「お月様の光をたよりにおいでになってくださいませ。山が間に立ちはだかった遠い道のりではないのでしょうに」 書き下し文 「月読(つきよみ)の 光に来(き)ませ あしひきの 山を隔(へだ)てて 遠(とほ)からなくに」 男を待つ女の立場を…

395.巻四・668・669:厚見王が歌一首と春日王が歌一首

668番歌 訳文 「朝ごと日ごとに色づいてゆく山、その山にかかる白雲がいつしか消えるように、私の心から消え去ってゆくようなあなたではないはずなのに」 書き下し文 「朝に日(け)に 色づく山の 白雲の 思ひ過ぐべき 君にあらなくに」 この歌の鮮明な色彩…

394.巻四・664・665・666・667:大伴宿禰像見(かたみ)が歌一首、安倍朝臣虫麻呂が歌一首と大伴坂上郎女が歌二首

664番歌 訳文 「いくら降っても雨に降りこめられてなどいられるものか。あの子に逢いに行くよと言ったのだもの」 書き下し文 「石上(いそのかみ) 降るとも雨に つつまめや 妹に逢はむと 言ひてしものを」 665番歌 訳文 「面と向かっていくら見ても飽きるこ…

393.巻四・662・663:市原王が歌一首と安都(あとの)宿禰年足(としたり)が歌一首

662番歌 訳文 「かわいいあの子のいる網児(あご)の山をいくえにも重なった向こうに隠している佐堤(さで)の崎よ。その名を聞くと、網児でさで網を広げていたあの海人おとめの姿が夢にまで見えてくる」 書き下し文 「網児の山 五百重(いほへ)隠せる 佐堤…