2017-01-01から1年間の記事一覧
生石:大石とも書く。 355番歌 訳文 「大国主命と少彦名命が住んでいらしたという志都(しつ)の岩屋は、幾代を経たことだろうか」 書き出し文 「大汝(おほなむぢ) 少彦名(すくなびこな)の いましけむ 志都の岩屋は 幾代経ぬらむ」 志都の岩屋:島根県太…
354番歌 訳文 「縄の浦の塩焼き煙、夕方になると、行き過ぎることもできずに、山にたなびく」 書き出し文 「縄の浦に 塩焼く火の気 夕されば 行き過ぎかねて 山にたなびく」 「・・・兵庫県で「万葉集」に登場する地域は、西海道(九州)へのメインルート・…
釈通観:伝未詳、釈は仏門にある者を表す。 353番歌 訳文 「吉野の高城(たかき)の山を見ると、そこに白雲が、進むのをためらうかのようにずっとたなびいている」 書き出し文 「み吉野の 高城の山に 白雲は 行きはばかりて たなびけりみゆ」 白雲のかかる山…
352番歌 訳文 「今頃は葦辺に鶴が鳴いて港風が冷たく吹いていることであろう。あの津乎の崎よ」 書き出し文 「葦辺には 鶴がね鳴きて 港風 寒く吹くらむ 津乎の崎はも」 回想の歌。 港・葦・鶴は取り合わせとして固定していた。 引用した本です。 昨日は急用…
351番歌 訳文 「世の中を何に譬えたらよいだろう。それは、朝早く漕いで出て行った船が、跡に何も残さないようにはかないものだ」 書き出し文 「世の中を 何に譬へむ 朝開き 漕ぎ去にし船の 跡なきがごと」 自問自答の形で、この世の常なきさまを詠んだ歌。…
347番歌 訳文 「この世の中の色々の遊びの中で一番楽しいことは、一も二もなく酔い泣きすることのようだ」 書き出し文 「世間の 遊びの道に 楽しきは 酔い泣きするに あるべかるらし」 前歌の「心遣る」を承けて「世間の遊び」と続けたもの。 「酔い泣き」を…
341番歌 訳文 「分別ありげに小賢しい口をきくよりは、酒を飲んで酔い泣きしている方がずっとましだろう」 書き出し文 「賢しみと 物言ふよりは 酔ひ泣きするし まさりたるらし」 「賢しら」と「酔ひ泣き」とを対比し、後者を賞揚した歌。 前歌の「賢しき」…
338番歌以下十三首は、338、341、344、347、350が柱となり、その間にある二首ずつが一組となっているようです。 338番歌 訳文 「くよくよしてもはじまらない物思いなどにふけるよりは、そのこと濁り酒の一杯でも飲む方がよさそうだ」 書き出し文 「験(しる…
罷る:貴人(ここは旅人)のもとから退出する意 337番歌 訳文 「憶良めは今はお暇致しましょう。子が泣いているでしょう。きっとその子の母も私を待っているでしょうよ」 書き出し文 「憶良らは 今は罷らむ 子泣くらむ それその母も 吾を待つらむそ」 引用し…
沙弥:僧侶として最小限の資格である十戒を受けたばかりで、それ以上の段階にすすんでいない男性。大伴旅人と交友があった。 336番歌 訳文 「筑紫産の真綿は、まだ肌身につけて着てみたことはないが、いかにも暖かそうだ」 書き出し文 「しらぬひ 筑紫の綿は…
帥大伴卿:太宰府の長官、大伴旅人。 331番歌は、328番歌~330番歌へと続いてきた「奈良の都」、特に、330番歌それを承けている。 331番歌 訳文 「私の若い盛んだった頃は、また戻って来ることがあろうか。もしかして、もう奈良の都を見ずに終わるのではなか…
329番歌は、328番歌の「奈良の都」を承けて続けた歌。 329番歌 訳文 「(やすみしし)わが大君が治められる国々のうちでは何よりも都のことが思われますね。」 書き出し文 「やすみしし 我が大君の 敷きませる 国の中には 都し思ほゆ」 330番歌は、329番歌に…
328番歌 訳文 「(おをによし)奈良の都は、咲く花が爛漫と咲き誇るように、今真っ盛りでした」 書き出し文 「あをによし 奈良の都は 咲く花の 薫(にほ)ふがごとく 今盛りなり」 「平城京というと、まず想起されるのはこの歌である。 「にほふ」は香りにい…
通観:伝未詳、353番歌にも歌があります。 327番歌 訳文 「たとえ海の神います沖へ持って行って放したとしても、どうしてこんなものが二度と生き返りましょうや」 娘たちのからかいに対して、海のものであるあわびを生き返らすことは、海神の力でもだめなの…
後に姓大原真人の氏を賜はる 326番歌 訳文 「遠く見わたすと明石の浦に漁り火が光って見えるが、その漁り火がちらつくように人目につくようになってしまった。妹への恋心が」 書き出し文 「見わたせば 明石の浦に 燭す火の 穂にぞ出でぬる 妹に恋ふらく」 引…
324番歌 訳文 「神岡にたくさんの枝をさしのべて生い茂っている栂(つが)の木、その名のようにつぎつぎと、玉葛のように絶えることなく、ずっとこうしていつもいつも訪ねてみたく思う明日香の古い都は、山が高く川が雄大である。 春の日は山の眺めがよく、…
322番歌 訳文 「天皇である神が領知なさっている国々に温泉はたくさんあるけれども、島や山の素晴らしい国だと峻厳な伊予の高嶺である射狭庭(いざにわ)の岡にお立ちになられて、歌を思い、ことばを練られた、そんな温泉の近くの木立を見ると臣の木はそのま…
319番歌 訳文 「甲斐の国と駿河の国と二つの国の真中から聳え立っている富士の高嶺は、空の雲も行き滞り、飛ぶ鳥も飛び通うこともなく、燃える火を雪で消し、降る雪を火で消し続けて、言いようもなく名付けようも知らぬほどに、霊妙にまします神である。 せ…
317番歌 訳文 「天地が別れた時から、神々しくて高い貴い、駿河にある富士の高嶺を、大空はるかに振り仰いで見ると、空を渡る太陽の姿も隠れ、照る月の光も見えず、白雲も行きかね、時となく常に雪は降っている。語り継ぎ言い継いで行こう、この富士の高嶺は…
聖武天皇の神亀天平時代の歌人、大伴旅人、家持のお父さんですね。 315番歌 訳文 「み吉野、この吉野の宮は山そのものがよくて貴いのである、川そのものがよくて清らかなのである。天地とともに長く久しく万代に改らずあることであろう、わが大君の行幸の宮…
314番歌 訳文 「越の国へ行く道の能登瀬川、この川の音のなんとさやかなことよ。流れの激しい川瀬ごとに」 書き出し文 「さざれ波 磯越道(いそこしぢ)なる 能登瀬川 音のさやけさ たぎつ瀬ごとに」 引用した本と参考にした本です。 下の本は説明が詳しく、…
313番歌 訳文 「吉野の宮滝の白波よ、この白波のようにその昔を知らない私なのだが、人々が語り継いでくれたので、昔がゆかしく偲ばれる」 書き出し文 「み吉野の 滝の白波 知らねども 語りし継げば いにしへ思ほゆ」 吉野の宮滝に来て、人から伝え聞いた天…
312番歌の訳文と書き出し文は、下の引用文にあります。第四章「母の死」(1)天平の盛期の「難波京の造営」の項に。 今朝は夜半の雨もあがり暖かく、ただ、夕方から雪のようです。 明日は久しぶりの雪かきかな。 では、このへんで。
豊前(とよのみちのくち)の国:福岡県東部と大分県北部 311番歌 訳文 「こうして見なれた豊国の鏡山、この山を久しく見ないようになったら、きっと恋しく思うことだろう」 書き出し文 「梓弓 引き豊国の 鏡山 見ず久ならば 恋しけむかも」 住み慣れた任地を…
東の市の樹を詠みて:平城京の東の市、樹は並木、詠みは与えられた題について詠ずる意。 310番歌 訳文 「東の市の並木の枝がこんなに垂れ下がるようになるまで、あなたに久しく逢っていないのだから、なるほどこんなに恋しくなるのももっともだ」 書き出し文…
紀伊の国の歌は、行幸歌ばかりでなく、旅行く者が耳にした伝説も歌われている。 たとえば、博通法師(伝未詳)という僧侶は、三穂(日高郡美浜町三尾)を訪れた時、その地に伝わる伝説を歌った三首です。 307番歌 訳文 「(はだすすき)久米の若子がいたとい…
安貴王:志貴皇子の孫、春日王の子。妻は紀女郎。 306番歌 訳文 「伊勢の海の沖の白波が花であったらよいのに。包んで持ち帰っていとしい子への土産にしようものを」 書き出し文 「伊勢の海の 沖つ白波 花にもが 包みて妹が 家(おへ)づとにせむ」 伊勢の海…
305番歌 訳文 「こんなことになるに違いないから見るのは嫌だというのに、近江の旧都をわけもなく見せて・・・」 書き出し文 「かく故に 見じと言ふものを 楽浪(ささなみ)の 旧(ふる)き都を 見せつつもとな」 近江の都跡に行くはめになった作者が、そこ…
303番歌 訳文 「名の素晴らしい印南(いなみ)の海、その沖波はるかに隠れてしまった。大和の連山は」 書き出し文 「名ぐはしき 印南の海の 沖つ波 千重(ちへ)に隠(かく)るぬ 大和島根は」 印南は現在の兵庫県明石市から加古川市にかけての一帯と言われ…
302番歌 訳文 「あの子の家までの道のりちょっと遠いが、夜空を渡る月と競争して月のあるうちに行き着けるだろうか」 書き出し文 「子らが家道(いへぢ) やや間遠(まどほ)きを ぬばまたの 夜渡る月に 競(きほ)ひあへむかも」 中納言安倍広庭卿:安倍御…