万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

392.巻四・656~661:大伴坂上郎女が歌六首

656番歌 訳文 「私の方だけですよ、あなたに恋い焦がれているのは。あなたのおっしゃる恋い焦がれるという言葉は、口さきだけの慰めとわかっています」 書き下し文 「我れのみぞ 君には恋ふる 我が背子が 恋ふといふことは 言のなぐさぞ」 654番歌の「恋ふ」…

391.巻四・653・654・655:大伴宿禰駿河麻呂が歌三首

653番歌 訳文 「心では忘れることでないのに、思いのほかにお逢いしないままでずるずると一月もたってしまいました」 書き下し文 「心には 忘れぬものを たまさかに 見ぬ日さまねく 月ぞ経にける」 一月も訪れなかったという大げさな形で無沙汰をわびる挨拶…

390.巻四・651・652:大伴坂上郎女が歌二首

651番歌 訳文 「夜も更けて空から露がしっとりと降りました。家の人もきっと今ごろは待ち焦がれていることでしょう」 書き下し文 「ひさかたの 天の露霜 置きにけり 家なる人も 待ち恋ひぬらむ」 家で待つ娘を思う母心を歌うと見せて、同じ場所に居あわせた…

389.巻四・650:大伴宿禰三成、離(か)れてまた逢ふことを歓ぶる歌一首

650番歌 訳文 「あなたは今でも常世の国に住んでおられたのですね。昔お目にかかった時よりもずっと若返られました」 書き出し文 「我妹子は 常世の国に 住みけらし 昔見しより をちましにけり」 大宰府から帰京した後、旧知の女性に贈った歌。相手は賀茂女…

388.巻四・646~649:四首は、大伴宿禰駿河麻呂が身内の坂上郎女と恋人同士を装った贈答。

大伴宿禰駿河麻呂が歌一首 646番歌 訳文 「ひとかどの男が思い焦がれ、意気消沈して何度もつく深いため息を、あなたは自分のせいだとも思わないのですかね」 書き出し文 「ますらをの 思ひわびつつ たび数多(まね)く 嘆くなげきを 負はぬものかも」 大伴坂…

387.巻四・643~645:紀女郎が怨恨歌三首 鹿人大夫が女(むすめ)、名を小鹿といふ。安貴王が妻なり

紀女郎:家持が最も心を許して恋の遊びをした相手で、家持より年上らしい。 643番歌 訳文 「私がもし世の常の女であったなら、渡るにつけて「あああなた」と私が胸を痛めるこの痛背(あなせ)川を、渡りかねてためらうことはけっしてありますまい」 書き出し…

386.巻四・631~642の十二首

湯原王、娘子に贈る歌二首 志貴皇子の子なり 631番歌 訳文 「無愛想なんだな、あなたという人は、あれほど遠い家路を空しく帰らせても平気なのだと思うと」 書き出し文 「うはへなき ものかも人は しかばかり 遠き家道を 帰さく思へば」 以下十二首、湯原王…

385.巻四・629・630:大伴四綱(おおとものよつな)が宴席歌一首と佐伯宿禰赤麻呂が一首

629番歌 訳文 「どんなつもりで使いなんかよこすの。何をおいてもあなたをこそ、今や遅しと待ちかねているのです」 書き出し文 「何すとか 使の来つる 君をこそ かにもかくにも 待ちかてにすれ」 前歌(628番歌)の「かにもかくにも」の意味を転機させながら…

384.巻四・627・628:娘子、佐伯宿禰赤麻呂に報へ贈る一首と佐伯宿禰赤麻呂が和ふる歌一首

娘子:架空の遊行女婦か。404~406番歌参照。 627番歌 訳文 「私の腕(かいな)を枕に寝たいなどと思う大夫は、若返りの水でも探していらっしゃい。頭に白髪がまじっていますよ」 書き出し文 「我がたもと まかむと思はむ ますらをは をち水求め 白髪(しら…

383.巻四・626:八代女王、天皇に献(たてまつ)る歌一首

626番歌 訳文 「君ゆえにひどく噂を立てられていますので、その穢れを洗い流そうと、旧都の飛鳥川へみそぎをしに参ります」 書き出し文 「君により 言の繁きを 故郷の 明日香の川に みそぎしに行く」 みそぎ:420番歌参照。明日香京の飛鳥川や難波宮の御津浜…

382.巻四・625:高安王、裏(つつ)める鮒を娘子(をとめ)に贈る歌一首

裏める:鮮度を保つために藻にくるんだか。 625番歌 訳文 「沖を漕ぎ岸べを漕ぎして、たった今あなたのために私がとってきたばかりのものですよ。この藻の中に臥しているちっぽけな鮒は」 書き出し文 「沖辺行き 辺を行き今や 妹がため 我が漁(すなど)れる…

381.巻四・624:天皇、酒人女王(さかひとのおほきみ)を思ほす御製歌一首 女王は、穂積皇子の孫女なり

天皇:四十五代聖武天皇 酒人女王:表題の脚注以外の伝未詳 624番歌 訳文 「「道でお逢いした時ほほえまれただけなのに、降る雪の消えるように今にも消え入りそうなのほどお慕いしています」と私に言ってくれるそなたよ」 書き出し文 「道に逢ひて 笑ますが…

380.巻四・623:池辺王(いけへのおほきみ)が宴誦歌(えんしょうた)一首

池辺王:大友皇子の孫、淡海三船の父。 宴誦歌:宴席朗詠用の歌の意。お座敷歌の類。自作に限らず古歌を取り上げることもあった。 623番歌 訳文 「松の葉越しに月は渡っていくし、おいでを待つうち月も替わってしまった。まさかあの世行ったわけでもあるまい…

379.巻四・621・622:西海道節度使判官(さいかいどうせつどしのじょう)、佐伯宿禰東人が妻、夫の君に贈る歌一首と佐伯宿禰東人が和ふる歌一首

西海道節度使判官:全国を畿内と七道に分けた行政区域の一つで、壹岐・対馬を含む九州全土の地方監察官の三等官。 佐伯宿禰東人:経歴以外未詳。 621番歌 訳文 「やむ時もなく、あなたを恋いつづけているためでありましょうか。旅に出ているあなたの姿が夢に…

378:巻四・619・620:大伴坂上郎女が怨恨歌(ゑんこんか)一首あわせて短歌

怨恨歌:恋における女の「怨恨」を主題にした歌で、中国の怨詩などに学んだものか。作者が関係した男性、藤原麻呂や大伴宿奈麻呂などへの怨みの歌と見る説もある。 619番歌 訳文 「長い難波菅の根ではないが、ねんごろにあなたが言葉をかけて下さって、何年…

377.巻四・618:大神郎女、大伴宿禰家持に贈る歌一首

大神郎女:伝不詳、1505番歌にも家持への贈歌がある。 618番歌 訳文 「真夜中につれを求めて呼ぶ千鳥よ。恋の思いに沈んで1私がしょげかえっている時に、むやみやたらと鳴いたりして・・・・・」 書き出し文 「さ夜中に 友呼ぶ千鳥 物思ふと わびをる時に 鳴…

376.巻四・613~617:山口女王、大伴宿禰家持に贈る歌五首

山口女王:伝未詳。1617番歌にも家持に贈った歌があります。 613番歌 訳文 「物思いをしていると他人に気取られまいと、むりやりいつも平気をよそおっています。ほんとは恋しくて死んでしまいそうなのです」 書き出し文 「物思ふと 人に見えじと なまじひに …

375.巻四・611・612:大伴宿禰家持が和ふる歌二首

和ふる歌二首:609~610番歌に答える形をとったもの。 611番歌 訳文 「あなたが遠くへ行かれた今となっては、もう逢える機会はなかろうと思うせいか、私の胸はこんなに重苦しく閉ざされて晴ればれとしないことで・・・・・」 書き出し文 「今さらに 妹に逢は…

374.巻四・587~610の内の603~610の八首:笠郎女、大伴宿禰家持に贈る歌二十四首(3-3」)

五群 603番歌 訳文 「恋の物思いで人が死ぬものであったとしたら、千度も繰り返して私は死んだことだろう」 書き出し文 「思ひにし 死にするものに あらませば 千たびぞ我れは 死にかへらまし」 恋の歌に多い「恋ひ死ぬ」という発想を踏まえて歌ったもの。類…

373.巻四・587~610の内の595~602:笠郎女、大伴宿禰家持に贈る歌の二十四首の内の八首(3-2)

三群 595番歌 訳文 「私がこの世に生きているかぎり、あの方を忘れることがあろうか。日ましにますます恋しさの慕ってゆくことはあっても」 書き出し文 「我が命の 全(また)けむ限り 忘れめや いや日に異(け)には 思ひ増すとも」 類歌2882番歌。 いや日…

372.巻四・587~610の内の587~594:笠郎女、大伴宿禰家持に贈る歌二十四首の内の八首(3-1)

笠郎女:385~397番歌参照。家持と交渉のあった女性歌人。笠金村の近親者か。集中の二十九首は、すべて家持に贈ったもの。 二十四首:四首づつが一組をなして六群に分かれる。各群の一首目に類歌を持つもの、二首目に物に寄せる歌、三首目に近くにいるのに逢…

371.巻四・586:大伴宿禰稲公(いなきみ)、田村大嬢に贈る歌一首  大伴宿奈麻呂郷が女なり

田村大嬢:大伴宿奈麻呂の娘で、坂上大嬢の異母姉。妹に贈った歌が多く、特にこの姉妹は親密であった。 586番歌 訳文 「なまじ逢ったりしなかったらこんなに恋い焦がれることもなかったろうに、あなたにお逢いしてむやみにこうも恋に苦しむばかりでは、これ…

370.巻四・585:大伴坂上郎女が歌一首

585番歌 訳文 「帰って行かれる時機(しお)はいつでもありましょうに、わざわざ奥さんが恋しいからとて立って行くなんてことがあるものですか」 書き出し文 「出でていなむ 時しはあらむを ことさらに 妻恋しつつ 立ちていぬべしや」 からかいをこめて来客…

369.巻四・581~584:大伴坂上家(さかのうへのいへ)の大嬢(おおいらつめ)、大伴宿禰家持に報(こた)へ贈る歌四首

大伴坂上家の大嬢:大伴宿奈麻呂と坂上朗女の間の子。この時十歳前後か。後に従兄の家持の正妻となった。 報へ:贈られた歌は載せられていない。この四巻にはこのような場合がしばしばある。 581番歌 訳文 「生きてさえいたら逢える日があるかもしれません。…

368.巻四・579・580:余明軍、大伴宿禰家持に与ふる歌二首 明軍は大納言卿が質人なり

与ふる:身分の低い相手から贈られたことを「与」の字で記すのは編者家持の立場によるか。 質人:官位。職分に応じて朝廷から賜る従者。主人が死ねば一年間服喪して後、解任される習いであった。 579番歌 訳文 「お世話させていただいた時からまだどれほども…

367.巻四・578:大伴宿禰三依が別れを恋しぶる歌一首

大伴宿禰三依:552番歌参照、御行の子か。 別れ:旅人の死で、仕えたその家を立ち去る時に、旅人の子、家持に贈った歌らしい。 578番歌 訳文 「天地の続く限りいつまでも住み続けようと思っていたこの家の庭だったのに・・・・・」 書き下し文 「天地と とも…

366.巻四・577:大納言大伴卿、新袍(しんほう)を摂津大夫高安王に贈る歌一首

新袍:袍は礼服である束帯の上着。袖が長く欄がつき、多く腋開け。 摂津:摂津には国府がなく摂津職が置かれ難波宮も管理した。その長官で正五位上相当。 高安王:長皇子の孫か。60番歌参照。 577番歌 訳文 「私の着物はいい人に着せたりしないでください。…