万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

289.巻三・398・399:藤原朝臣八束(やつか)が梅の歌二首

八束、後の名は真楯、房前が第三子 藤原氏としては数少ない万葉圏の人。家持と心情の通うものがあった。 398番歌 訳文 「あなたの家に咲いている梅の花が、ええ、いつなりとも、実になる時にはお約束をしましょう」 書き出し文 「妹が家に咲きたる梅の何時も…

288.巻三・395・396・397:笠郎女の大伴宿禰家持に贈れる歌三首

395番歌 訳文 「託馬野(つくまの)に生えるという紫草で衣を染めるように、まだ着ないうちから、早くも人目についてしまいましたよ」 書き出し文 「託馬野に生(お)ふる紫草衣に染めいまだ着ずして色に出でにけり」 396番歌 訳文 「陸奥の真野の草原は、遠…

287.巻三・394:余明軍が歌一首

余明軍:官位、職分に応じて朝廷から賜る従者。ここは旅人の資人。主人が死ねば一年間服喪して後、解任される習いであった。 394番歌 訳文 「標を張ってわがものと決めた住吉(うみのえ)の浜の小松は、将来ともわが松だよ」 書き出し文 「標結ひて 我が定め…

286.巻三・393:満誓沙弥が月の歌一首

393番歌 訳文 「見られなくても誰が月を見たがらずにおられようか。 山の端のあたりで出かねている月をよそながらにも見たいものだ」 書き出し文 「見えずとも 誰れ恋ひずあらめ 山の端に いさよふ月を 外に見てしか」 月に深窓の女性を譬えて憧れる気持を詠…

285.巻三・392:太宰大監大伴宿禰百代が梅の歌一首

392番歌 訳文 「あの夜見た時あたりをつけた梅だったのに、ついうっかり手折らずに来てしまった。 いい梅だとおもっていたのに」 書き出し文 「ぬばたまの その夜の梅を た忘れて 折らず来にけり 思ひしものを」 その夜宴席で見そめた遊行女婦(うかれめ)を…

284.巻三・391:造筑紫観世音寺別当沙弥満誓(ざうつくしくわんぜおんべつたうさみまんぜい)が歌一首

観世音寺:観音寺に同じ 391番歌 訳文 「鳥総(とぶさ)を立てて足柄山で、船に使える良い木を、木樵がただの木として伐って行った。むざむざと伐るには惜しい、船に使える良い木だったのに」 書き出し文 「鳥総立て 足柄山に 船木伐り 木に伐り行きつ あた…

283.巻三・390:紀皇女の御歌一首

譬喩歌(ひゆか):万葉集の歌を表現の面から分類した部立の一つ。 巻三は雑歌、譬喩歌、挽歌からなっています。雑歌の次に390番歌から譬喩歌に入ります。 譬喩歌は人間の姿態・行為・感情を事物に譬えて述べた歌です。 相聞的内容の寓喩(ぐうゆ)の歌がそ…

282.巻三・388・389:羈旅(きりょ)の歌一首あわせて短歌

羈旅:旅の意、ここは公用の船旅での作。 388番歌 訳文 「海の神は霊威のあらたかな神だ。 淡路島を大海のまん中に立て置いて、白波を伊予の国までめぐらし、明石の海峡(せと)を通じて夕方には潮を満ちさせ、明け方には潮を引かせる。 その満ち引きの潮鳴…

281.巻三・385・386・387:仙柘枝(やまびめつみのえ)が歌三首

仙柘枝:吉野の漁夫味稲(うましね)が谷川で拾った山桑の枝が仙女と化し、その仙女と結婚した話が、「懐風藻」その他にある。その柘枝仙媛(つみのえやまひめ)に関する歌。以下三首は、宴席で歌われたものらしい。 385番歌 訳文 「吉志美が岳は険しくて草…

280.巻三・384:山部宿禰赤人が唄一首

384番歌 訳文 「わが家の庭にけいとうを蒔き育てて、それは枯れてしまったが、懲りずにまた種を蒔こうと思っています」 書き出し文 「我がやどに 韓藍(からあゐ)蒔き生ほし 枯れぬれど 懲りずてまたも 蒔かむとぞ思ふ」 韓藍(からあゐ)の現在の名はケイ…

279.巻三・382・383:筑波の岳に登りて、丹比真人国人が作る歌一首あわせて短歌

筑波の岳:茨城県の筑波山の意。 丹比真人国人:天平宝字元(757)年、橘奈良麻呂の乱に連座して伊豆に流された。 382番歌 訳文 「東の国に高い山はたくさんあるが、中でとりわけ、男神と女神のいます貴い山で二つの嶺の並び立つさまが心を引き付ける山と、…

278.巻三・381:筑紫の娘子、行旅(かうりよ)に贈る歌一首

娘子、字を児島といふ。 381番歌 訳文 「故郷(くに)を思うあまりにあせったりなさらないで。 風向きをよく見きわめていらっしゃい。 大和への路は荒うございますよ」 書き出し文 「家思ふと 心進むな 風まもり 好くしていませ 荒しその道」 965番歌から968…

277.巻三・379・380:大伴坂上郎女、神を祭る歌一首あわせて短歌

大伴坂上郎女:大伴安麻呂の娘。旅人の異母妹。母は、石川郎女。はじめ穂積皇子の寵得、皇子没後は藤原麻呂(不比等の子)に愛されたが、のち異母兄大伴宿奈麻呂の妻となり、坂上大嬢(家持の妻)と二嬢(おといらつめ)を生んだ。坂上の地に住み、旅人の没…

276.巻三・378:山部宿禰赤人、故太政大臣藤原家の山池を詠む歌一首

故太政大臣藤原家:養老四年(720)に没し、太政大臣一位を追贈された藤原不比等の家。 山池:築山や池。林泉。 378番歌 訳文 「ずっと昔から見馴れた池の堤ではあるが、主もなく年月を経て、渚にはびっしり水草が生えてしまった」 書き出し文 「いにしへの …

275.巻三・376・377:湯原王が宴席の歌二首

376番歌 訳文 「とんぼの羽根のような薄ものの袖を飄して舞うこの子、私はこの子ことを心の奥深く思っているのですが、よく見てください、わが君よ」 書き出し文 「あきづ羽の 袖振る妹を 玉櫛笥(たまくしげ) 奥に思ふを 見たなへ 我が君」 美女の舞を座興…

274.巻三・375:湯原王、吉野にして作る歌一首

湯原王:志貴皇子の子。兄弟に光仁天皇や春日王・海上女王らがいる。集中十九首の歌がる。 375番歌 訳文 「吉野にある夏実(なつみ)の川の川淀で、鴨が鳴いている。あの山影で」 書き出し文 「吉野なる 夏実の川の 川淀に 鴨そ鳴くなる 山影にして」 宮滝か…

273.巻三・374:石上乙麻呂朝臣が歌一首

374番歌 訳文 「雨が降ったら私が着ようと思っている笠、その笠の名を持つ笠の山よ。他人には着せるな、たとえびしょ濡れになろうとも」 書き出し文 「雨降らば 着むと思へる 笠の山 人にな着せそ 濡れは漬(ひ)つとも」 笠の山の名や形に興味をもって山に…

272.巻三・372・373:山部宿禰赤人、春日野に登りて作る歌一首あわせて短歌

372番歌 訳文 「春日山の御笠の峯に毎朝雲がたなびき、貌鳥(かおどり)が絶え間なく鳴きしきっている。 そのたなびく雲のように私の心は滞って晴れやらず、その鳴きしきる鳥のように片思いばかりして、昼はひねもす、夜は夜もすがら、そわそわと立ったり座…

271.巻三・371:出雲守門部王、京を偲ぶ歌一首

門部王:後に大原真人の氏を賜る、310番歌を詠む。 371番歌 訳文 「飫宇(おう)の海に続く河原の千鳥よ。おまえが鳴くと、わが故郷の佐保川が思い出されるよ」 書き出し文 「飫宇(おう)の海の 川原の千鳥 汝が鳴けば 我が佐保川の 思ほゆらくに」 出雲守…

270.巻三・370:安倍広庭卿が歌一首

安倍広庭卿:302番歌をよんでいます。 370番歌 訳文 「雨も降らずべた曇りの続く夜はさっぱりしないが、そのようにさっぱりと思いきることもできずにあなたに恋い焦れておりました。もしやおいでになろうかと思いながら」 書き出し文 「雨降らず との雲(ぐ…

269.巻三・368・369:石上大夫が歌一首と和ふる歌一首

368番歌 訳文 「われわれは大船の舷に楫をたくさん取りつけ、恐れ多くもわが大君の仰せのままに磯から磯へと漕ぎ進んで行く」 書き出し文 「大船に 真楫しじ貫く 大君の 命畏み 磯廻(み)するかも」 右↑は、今案ふるに、石上朝臣乙麻呂、越前の国守に任けら…

268.巻三・366・367:角鹿(つのが)の津にして舟に乗る時に、笠朝臣金村が作る歌一首あわせて短歌

角鹿(つのが)の津:敦賀の港 366番歌 訳文 「越の海の敦賀の浜から、大船に左右の梶をいっぱい取り付け、(いさなとり)海路に出てあえぎながら私が漕いで行くと、(ますらをの)手結の浦で海人娘子が塩を焼いている煙が見えるが、(草枕)旅先なので一人…

267.巻三・364・365:笠朝臣金村、塩津山にして作る歌二首

笠朝臣金村:伝不詳、聖武朝の宮廷歌人 塩津山:滋賀県伊香郡西浅井町塩津(?)の北にある山。この峠を越えると越の国の敦賀である。塩津は長浜市の北西部。近江塩津駅周辺。琵琶湖の最北部にあたる。 364番歌 訳文 「ますらおが勢いよく弓末を振り立てて射…

266.巻三・357~363:山部宿禰赤人が歌六首と或本の歌一首

357番歌 訳文 「縄の浦にたどりついて振り返るとはるか沖合に見える島、その島のあたりを漕いでいる舟は、まだ釣りのまっ最中らしい」 書き出し文 「縄の浦ゆ そがひに見ゆる 沖つ島 漕ぎ廻(み)る舟は 釣りしすらしも」 船泊てのころ合いになっても、船が…

265.巻三・356:上古麻呂が歌一首

明けましておめでとうございます。 謹んで新年のお慶びを申し上げます。 本年もよろしくお願いいたします。 北海道神宮で1月2日に購入の土鈴「えと鈴・戌」を貼り付けます。 上古麻呂:伝不詳 356番歌 訳文 「今日もまた、明日香の川の、いつも夕方になると…