266.巻三・357~363:山部宿禰赤人が歌六首と或本の歌一首
357番歌
訳文
「縄の浦にたどりついて振り返るとはるか沖合に見える島、その島のあたりを漕いでいる舟は、まだ釣りのまっ最中らしい」
書き出し文
「縄の浦ゆ そがひに見ゆる 沖つ島 漕ぎ廻(み)る舟は 釣りしすらしも」
船泊てのころ合いになっても、船がまだ沖で操業していることに感嘆し、旅先の景を讃えた歌。
以下六首は、帰京後まとめて披露された宴歌らしい。
358番歌
訳文
「武庫の浦を漕ぎめぐって行く小船よ。妻に逢えるという粟島を後ろに見ながら都の方へ漕いで行く、ほんとうに羨ましい小船よ」
書き出し文
「武庫の浦を 漕ぎ廻る小船 粟島を そがひに見つつ 羨(とも)しき小船」
前歌と同趣の景物や用語を承けた望郷歌。
359番歌
訳文
「安倍(あへ)の島の鵜の住む荒磯に絶え間なく波が寄せて来る、その波のようにこの頃はしきりに大和のことが思われる」
書き出し文
「安倍の島 鵜の住む磯に 寄する波 間なくこのころ 大和し思ほゆ」
前歌より望郷の焦点が絞られている。
360番歌
訳文
「潮が引いたらせっせと玉藻を刈り集めておきなさい。
家の妻が浜からのみやげを求めたとき、この藻に包んでいったい何を見せたらよかろう」
書き出し文
「潮干(しほひ)なば 玉藻刈りつめ 家の妹が 浜づと乞はば 何を示さむ」
前歌の「大和」を承けて「家の妹」に焦点を絞った。
361番歌
訳文
「秋風吹く明け方、こんな寒い明け方あなたは佐農の岡を越えていらっしゃるだろうに、私の着物をぬいでお貸ししておけばよかった」
書き出し文
「秋風の 寒き朝明(あさけ)を 佐農の岡 越ゆらむ君に 衣(きぬ)貸さましを」
前歌の「家の妹」を承けて、待つ妻の立場で作った歌。
朝明(あさけ):暁に続く日の出前のひととき
362番歌
訳文
「みさごの棲んでいる磯辺に生えるなのりそではないが、名告ってはいけないその名まえ、明しておくれよ、親御に知れてもいいじゃないか」
書き出し文
「みさご居る 磯みに生(お)ふる なのりその 名は告(の)らしてよ 親は知るとも」
旅先のおとめに語りかけた歌。前歌の妻と対比させて土地のおとめを出した。
或本の歌に日はく
363番歌
訳文
「みさごの棲んでいる荒磯に生えるなのりそではないが、名告ってはいけないその名まえ、明かしておくれ、たとえ親御に知れてもさ」
書き出し文
「みさご居る 磯みに生(お)ふる なのりその よし名は告(の)らせ 親は知るとも」
前歌の異伝。一般性をもった歌柄として、広く流布して歌われたものか。
引用した本です。
今朝、雪は積もっていなく、雪かきもなし。
でも日中雪の予報、午後には雪かきかな。
では、このへんで。