319.巻三・462~464:亡妾歌(ぼうしょうか)十三首の最初の三首(第一群)
462番歌
題詞:十一年己卯の夏の六月に、大伴宿禰家持、亡妾(ぼうせふ)を悲傷しびて作る歌一首
十一年:天平、739年。妾の死の時ではなく、作歌時を示す。このとき家持22歳。
亡妾:いかなる人か不明。妾は妻の一人。正妻に次ぐ者として、当時の社会では公に認められていた。
訳文
「これからは秋風がさぞ寒く吹くであろうに、どのようにしてたった一人で、その秋の夜長を寝ようというのか」
書き出し文
「今よりは 秋風寒く 吹きなむを いかにかひとり 長き夜を寝む」
来る秋を思いやる中に妾を亡くした悲しみを募らせることによって、以下亡妾歌(ぼうしょうか)十三首の冒頭としている。
今よりは 秋風寒く:陰暦夏六月は秋七月の直前なので、暦に基づく季節感からこう言った。
463番歌
題詞:弟 大伴宿禰書持(ふみもち)、即和ふる歌一首
大伴宿禰書持:家持の弟。天平18(746)年9月没。家持の挽歌(3957~3959番歌)。
訳文
「「秋の夜長をどのようにして、一人で寝ることか」などとあなたがおっしゃると、私まで亡くなったあの方が思い出されるではありませんか」
書き出し文
「長き夜を ひとりや寝むと 君が言へば 過ぎにし人の 思ほゆらくに」
前歌の言葉を承けながら、故人のことを前面に引き出して、ともに悲しんだ歌。
464番歌
題詞:また家持、砌(みぎり)の上の瞿麦(なでしこ)の花を見て作る歌一首
また:462番歌を承けてまた、の意。作るに続く。
砌(みぎり)の上:軒の下の石畳のそば。
瞿麦:かわらなでしこ、408番歌参照。
訳文
「秋になったら、花を見ながらいつもいつも私を偲んでくださいね、と妻が植えた庭のなでしこ、そのなでしこの花はもう咲きはじめてしまった」
書き出し文
「秋さらば 見つつ偲へと 妹が植ゑし やどのなでしこ 咲きにけるかも」
まだ夏なのに亡妾の形見となったなでしこが咲いたことを嘆き、秋になると悲しみが一層増すことを予感している。旅人の452~453番歌を踏まえる。以上第一群。
引用した本です。
今朝は寒さも和らぎ、夜半からの雨が降ったり止んだりしています。
これから一雨ごとに雪が少なくなっていくでしょう。
では、今日はこの辺で。