293.巻三・404・405・406:娘子、佐伯宿禰赤麻呂が贈る歌に報ふる一首、佐伯宿禰赤麻呂がさらに贈る歌一首、娘子がまた報ふる歌一首
佐伯宿禰赤麻呂:伝未詳
404番歌
訳文
「あのこわい神の社さえなかったなら、春日の野辺で、粟を蒔きたいところなのですが、あいにくね」
書き出し文
「ちはやぶる 神の社し なかりせば 春日の野辺に 粟蒔かましを」
妻のある中年男性の誘いにからかい半分に答えた歌。
神の社:佐伯宿禰赤麻呂の妻を譬えた。
粟蒔かましを:粟蒔かに類音「逢はまく」を懸け、逢いたいのだが、の意をにおわす。
405番歌
訳文
「もしも春日野で、あなたが粟を蒔いたなら、鹿を狙いに毎日行こうと思うが、それにしてもそこに憚り多い神の社のあることが恨めしい」
書き出し文
「春日野に 粟蒔けりせば 鹿待ちに 継ぎて行かましを 社し恨めし」
前歌の社を娘子の愛人の意に取りなしてやり返した歌。
粟蒔けりせば:逢う気があるのなら、の意をにおわす。
鹿待ち:粟を食う鹿を追うため待ち伏せすること。娘子との逢引を譬えた。
406番歌
訳文
「社と言ったって私の祭る神のことを言っているのではありません。立派な男子であるあなたに依り憑いた神のことなのです。その神をよくお祭りくださいましな」
書き出し文
「我が祭る 神にはあらず ますらをに 憑きた
神ぞ よく祭るべし」
前歌の「杜」を「神」で承け、404番歌に重ねて、杜の神とは実はあなたに憑いた神(妻)でしかないとやりこめた歌。
よく祭るべし:奥さんを大切にしなさい、の意を譬えて言った。
引用した本です。
今朝も積雪ゼロでしたが、夜半からうなりをあげて風が吹いています。
風の春とはほど遠く真冬日の続く毎日です。
では、今日はこの辺で。