万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

337.巻四・509・510:丹比真人笠麻呂、筑紫の国に下る時に作る歌一首あわせて短歌

509番歌

訳文

「女官の櫛箱に載っている鏡を見つというのではないが、御津の浜辺で着物の紐も解かずに妻恋しく思っていると、明け方の霧に包まれた薄暗がりの中で鳴く鶴のように、暗い気持で泣けてくるばかりだ。

せめてこの恋心の千分の一でも晴れようかと、いえのある大和の方を立ち上がって望むと、葛城山にたなびいた白雲に隠れて見えもしない。

空のかなたに遠く離れた田舎の国まともに向き合った淡路を漕ぎ過ぎ、粟島さえも背後に見ながら、朝凪には漕手が声を揃えて櫓を押し、夕凪には櫓をきしらせて波を押し分け進み、岩礁の間を漕ぎ漕ぎ廻り、はるばる稲日都麻(いなびつま)の浦のあたりも過ぎて、水鳥のように波にもまれて行くと、聞くさえ懐かしい家島だが、その波荒い磯にびっしりなびいて生えているなのりそ、口をきくなとでもいうようなその名聞くにつけ、どうして妻に何も話さずに来たのかと悔やまれる」

書き出し文

「臣(おみ)の女(め)の 櫛笥(くしげ)に乗れる 鏡なす 御津の浜辺に さ丹(に)つらふ 紐解き放(さ)けず 我妹子に 恋ひつつ居れば 明け暮れの 朝霧隠り 鳴く鶴の 音のみし泣かゆ 我が恋ふる 千重の一重も 慰みもる 心もありやと 家のあたり 我が立ち見れば 青旗の 葛城山に たなびける 白雲隠る 天さがる 鄙の国辺に 直向ふ 淡路を過ぎ 粟島を そがひに見つつ 朝なぎに 水手(かこ)の声呼び 夕なぎに 楫(かじ)の音しつつ 波の上を い行きさぐくみ 岩の間を い行き廻り 稲日都麻 浦みを過ぎて 鳥じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯の上に うち靡き 繁(しじ)に生ひたる なのりそが などかも妹に 告(の)らず来にけむ」

二段構成の歌。

「白雲隠る」までの第一段で船出前の妻恋しさを述べ、第二段では、船旅の困難さと重ねて、逢う意を思わせる「淡路」「栗島」、妻が隠れている意の「稲日都麻」、さらに「家島」と続く地名にかけて、家から離れて行く心細さを述べ、妻恋しさに戻っている。

巻末地図参照と、引用した本には淡路島周辺の地図があります。

臣の女:宮廷の女官、歌の中の「我妹子」を意識して用いている。

さ丹つらふ:紐の枕詞

青旗の:葛城山の枕詞

鄙:畿内以外の文化の遅れた地

稲日都麻:加古川口の三角州という。妻が隠れたという伝説をもつ地

家の島:姫路沖の家島群島

なのりそ:海藻のほんだわら。この名を「な告(の)りそ」と取りなしている。362番歌参照。

反歌

510番歌

訳文

「できることならすぐにも、袖をかわし紐を解いて妻と寝て帰って来たい。筑紫到着までの日数を数えて、その間に家まで一走り行ってきたいものだ」

書き出し文

「白栲の 袖解き交へて 帰り来む 月日を数(よ)みて 行きて来(こ)ましを」

船旅の無聊(ぶりょう)に、せめて到着までの余韻に家に行って心を慰めたいという気持を述べたもの。

袖解き交へて:「袖かはし紐解きて」の混交した表現。

月日:大宰府到着に間に合うだけの月日

引用した本です。

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昨日は気温はあまり高くならなかったのですが、快晴の一日でした。
玄関わきの福寿草は、雪が消えたので咲きました。
庭の雪割りも進み、福寿草のある場所の雪はいつでも除くことができます。
今日の晴れ具合を見て、雪を取り除く予定です。
では、今日はこの辺で。