445.巻五・812:天平元年十月七日 使に附けて進上(たてまつ)る 謹通 中衛高明閣下 謹空
謹通:謹んで書状を差し上げる。
中衛高明閣下(ちょうゑいかうめいかふか):房前。不比等の第二子。北家の祖。時に参議、正三位四十九歳。高明は人の徳をほめる尊称。
謹空:書簡の末尾につける慣用句。
訳文
「謹んで御芳書を拝承し、御詞藻と御情誼と、ただただ嬉しく存じます。
つけても、琴を贈られた高く遥かな御志の、卑しいこの身にいかに厚いかをしみじみと知りました。
ひとえに貴下を慕う心は平生に百倍する思いです。
謹んで遠来の御尊詠に和して、拙い歌を献上致します。
房前謹状」
812番歌
訳文
「物言わぬ木ではあっても、あなたのお気に入りの琴を膝から離すようなことは致しませぬ」
書き下し文
「言とはぬ 木にもありとも 我が背子が 手馴れの御琴 地(つち)に置かめやも」
我が背子:旅人を親しんで呼んだもの。
地に置かめやも:放ったらかしにせずいつも音を楽しむ意。「や」は反語。
長谷寺の続きの画像を貼り付けます。
秋の虫の声が聞こえてくるようになりました。
では、今日はこの辺で。