62.詠まれている花(12)あさがほ:ききょう・むくげ・あさがお・のあさがお
庭に咲く桔梗も花の時期を終えようとしています。
秋の花というより真夏の花のようです。
子供のころから身近にあった花ですが、定年退職近くになって、
ふと気が付くと周りに咲いていたのです。
デジカメで撮りながら万葉集にも詠まれていることを知り、
毎年咲くのを楽しみにしている花の一つです。
定年後七年目の今は、朝日の中で咲く青紫色の花が一番美しく感じます。
また、花を撮るのは朝露のある早朝と思い込んでいます。
山上憶良の歌(巻8・1538)にありますように秋の七草の一つ。
下の画像は、2013年8月5日に庭で咲いているのを撮りました。
万葉植物名「あさがほ」は、現代植物名として桔梗(キキョウ)、木槿(ムクゲ)、朝顔、野朝顔とする説などがあるようです。
集中五首詠まれていて、牧野富太郎氏のキキョウ説がもっとも有力とされているようです。
また、大貫 茂氏のノアサガオとする説も魅力があります。
でも西川氏の「萬葉の花」を読んで、アサガオ一首、ムクゲ一首、キキョウ三首の計五首という説を支持したいです。
詠まれている五首は、巻8・1538、10・2104、10・2274、10・2275、14・3502です。
これに花は詠まれていないのですが、巻8・1537を加えて六首として「あさがほ」の歌を見る必要があるようです。
1)巻8・1537:山上憶良
「秋の野に咲きたる花を 指折りかき数ふれば七種の花」
(秋の野に咲いている花を指を折って数えると次の七種の花が美しい)
2)巻8・1538:山上憶良:桔梗の花
「萩の花尾花葛花瞿麦の花 女郎花また藤袴朝貌の花」
(萩の花、薄、葛の花、瞿麦、女郎花、藤袴、朝貌(桔梗)の花)
3)巻10・2104:桔梗の花
「朝顔は 朝露負ひて咲くといへど 夕影にこそ咲きまさりけり」
(朝顔(桔梗)の花は朝露にぬれて咲くというが、夕方の光の中でこそ美しく咲き勝っていることよ)
4)巻10・2274:木槿の花
「展転(こいまろ)び恋ひは死ぬとも いちしろく色には出(い)でじ朝顔が花」
(身もだえして恋に苦しみ、死ぬようなことがあろうとも、はっきり態度に出して人には知られまい、朝顔(木槿)の花のようには)
(恋焦がれて死ぬようなことがあろうとも、顔には出すまい。人に覚られないようにしよう)
熱い恋心の歌ですね。
5)巻10・2275」:桔梗の花
「言に出でて言はばゆゆしみ 朝貌のほには咲き出ぬ恋もする」
(恋しさのあまり胸の内を口に出して言えば、不吉なことが起こりそうなので、朝顔(桔梗)の花のように人目にたたぬようにしましょう)
6)巻14・3502:朝顔の花
「わが目妻 人は放(さ)くれど 朝顔の としさへこごと 我は離(さ)かるがへ」
(私の愛しい妻を皆は引きはなそうとするけれども、私の愛しい妻とは、何年でも決して離れることはありませんよ)
「朝顔の」は、「離く」にかかる枕詞です。
以上の六首です。
桔梗は八月中旬頃から五裂の花を開くようで、昔は仏花として珍重されたとか。
今では野生種が激減し、品種改良された早咲きの種が好まれ、五、六月頃から咲きだすようです。
木槿は韓国では国花として親しまれているようで、中国原産でかなり前に渡来した落葉低木です。
朝顔は平安時代に渡来したとの説が有力ですが、奈良時代には、すでに渡来していたとも考えられ、平安時代渡来説に疑問を感じるとの考えもあります。
この説にたって6)巻14・3502:朝顔の花があります。
花の咲く時期の変遷、花の渡来時期などなど集中に詠まれている花を比定するのは難しいです。
今後、考古学などの知見が得られ、新しい解釈がなされるかもしれません。
今回参考にした本です。
万葉仮名を省略しました。