415.巻四・714~720:大伴宿禰家持、娘子に贈る歌七首
714番歌
訳文
「心では思いつづけているけれど、逢うきっかけのないままに、離れてばかりいて嘆いている私です」
書き下し文
「心には 思ひわたれど よしをなみ 外のみにして 嘆きぞ我がする」
691、692番歌の相手と同じ人に贈った歌であろう。次歌で坂上大嬢の母、坂上郎女の歌を踏まえていることは、家持がこの「娘子」に坂上大嬢を意識していたと考える一つの手がかりとなろう。
715番歌
訳文
「千鳥が鳴く佐保川の渡し場の清らかなせせらぎを、馬で駆け渡って、あなたの所に早く通いたいものだ。その日が来るのはいつのことか」
書き下し文
「千鳥鳴く 佐保の川門(かわと)の 清き瀬を 馬うち渡し いつか通はむ」
大伴坂上郎女の525番歌や528番歌を強く意識した歌。家持は当時、佐保の宅か西の宅に起居していたのだろうが、相手の家はその川向うにあった。
716番歌
訳文
「夜昼の見さかいもつかないほど夢中であなたに恋するこの私の心のほどは、もしやあなたの夢に現れましたか」
書き下し文
「夜昼と いふわき知らず 我が恋ふる 心はけだし 夢に見えきや」
深く思えば相手の夢に自分の姿が見えるとして、「夢に見えきや」と問う歌。
わき:区別。
717番歌
訳文
「私にまるで関心のなさそうな人を片思いに恋い慕っているのだから、わびしくってしかたがありません」
書き下し文
「つれもなく あるらむ人を 片思に 我れは思へば わびしくもあるか」
前歌とともに、一向に反応のない相手になんとか気持をわからせたいと訴えかける歌。
718番歌
訳文
「思いもかけずあなたの笑顔を夢に見て、心の中でいっそう恋心を燃え上がらせているのですよ」
書き下し文
「思はぬに 妹が笑(ゑま)ひを 夢に見て 心のうちに 燃えつつぞ居(を)る」
夢に姿が見えたのを、相手が思ってくれるためと取りなした歌。
719番歌
訳文
「ひとかどの男と思っている私なのに、こんなに身も心も痩せ衰えて、片思いに身を責めつづけるのであろうか」
書き下し文
「ますらをと 思へる我れを かくばかり みつれにみつれ 片思(かたおもひ)をせむ」
自負と自嘲のまじった複雑な心情をさらけ出す形で、相手の気持を引きつけようとしている。
みつれにみつれ:「みつる」は、体もやつれ心もしおれて元気を喪失する意の下二段動詞。
720番歌
訳文
「心もちぢに砕けてこんなに私が恋い焦がれているのを、あの人は知らずにいるのであろうか」
書き下し文
「むらきもの 心砕けて かくばかり 我が恋ふらくを 知らずかあるらむ」
通う日を想像し夢をあてにしても、所詮は通じない片思いだと嘆くことで結びとする歌。
むらきもの:「心」の枕詞。
恋ふらく:「恋ふ」のク語法。
引用した本です。
今朝は穏やかな朝を迎えました。
昨日庭で撮ったイトハユリとコマユリを貼り付けます。
イトハユリ
コマユリ
では、今日はこの辺で。