万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

103.巻第一・1:天皇の御製歌(おほみうた)・雄略天皇

万葉集に興味を持ち、好きな歌を訪ねてきましたが、そういえば四、五一六首の和歌を通して読んでいないなと思うようになりました。毎日、一首読んだとしてもほぼ12.4年かかることになります。でも、最初から読んでみたいなと思うのです。それで読んでいきたいと思います。なお、万葉かなの表記は省略します。

<雑歌>

泊瀬(はつせ)の朝倉の宮に天の下知らしめす天皇(すめらみこと)の代(みよ)

「籠(こ)もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘(なつ)ます子 家告(の)らせ 名告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我れこそ居(を)れ しきなべて われこそ居れ 我れこそば 告らめ 家をも名をも

(ほんにまあ、籠も立派な籠、掘串(ふくし)も立派な堀串を持って、この岡で菜をお摘みの娘さんよ。家をおっしゃい。名をおっしゃいな。この大和の国は、すっかり私が支配しているのだが、隅から隅まで私が治めているだが、この私の方から打ち明けよう。家をも名をも。)

リービ英雄氏の下記の本に、英訳が載っています。で、たぶん最初で最後の英語表記を下に。

「Poem by Emperor Yuryaku

Girl with your basket,

with your prety baskete,

with your shovel,

gatherring shoots on the hillside here.

I want to ask your home.

Tell  me your name!

This land of Yamato,

seen by the gods on highー

it is all my realm,

in all of it I am supreme.

I will tell you

my home and my name

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参考にした本は、青木生子・井出 至・伊藤 博・清水克彦・橋本四朗 校注者 新潮日本古典集成 万葉集一 新潮社 です。

伝承の作家の作としての巻頭歌。「家告らせ」の家は、家柄(家系)の意。当時女性に家や名を問うことは結婚の承諾を意味したという。この歌は求婚の相聞歌だが、雑歌の部に置かれたのは、公的、儀礼歌的性格を持つからという。これは雄略天皇を主人公とする原始的な歌劇の中で、天皇の春の国見歌として演じ伝えられたものであろうとしています。天皇との結婚は、この地が天皇に服属することを意味し、結婚による子孫繁栄ということから、この地の五穀豊穣を約束する意味を持つ。男の自分が名告げるぞという異例の意志を示したもので、娘に承諾させずにはおかぬ、君子らしい語気を持っている。この歌は、二いか五十三までの舒明朝から天武・持統朝にいたる時代の人々の立場から見て、古代国家を代表し、象徴する君主の御製として、巻頭に置かれたのであろうと。

多田一臣編では、五・七音に固定されていないことも、長歌完成以前の古さをうかがわせるという。おそらく謡いものとして、宮廷に伝えられた一首であろうと(多田一臣編(1999)万葉集ハンドブック 三省堂)。

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巻一、雑歌八十四首。集中最も早い時期に成立。七世紀前半の舒明天皇より八世紀初めの元明天皇に至る代々の天皇の世ごとに表題を立てて、ほぼ時間順に歌を配列。うち、1から53歌までは、題詞・左注の書式などがそれ以降とは異なり、最も原型的な姿をとどめる部分。推古天皇の世をもって終わる古事記に対し、それ以降の「現代」としての舒明天皇の時代を描き出し、歌のよって構築された歴史というべきものがそこにある。