468.巻五・876~879:書殿にして餞酒する日の倭歌四首
書殿:図書や文書を置く座敷、ここは筑前国守憶良公館の座敷か
餞酒:ここは旅人送別の宴
倭歌:漢詩に対する日本の歌の意。天平初年には「倭」や「日本」を「大和」「和」と記した例はまだ見当たらない。
876番歌
訳文
「空を飛ぶ鳥ででもありたいものだ。都まであなたをお送り申して飛び帰ることができるのに」
書き下し文
「天飛ぶや 鳥にもがもや 都まで 送りまをして 飛び帰るもの」
877番歌
訳文
「私どもが皆あなたの旅立ちにうちしおれているのに、龍田山にお馬が近づく頃には、一同のことなどお忘れになっていまうのではありますまいか」
書き下し文
「ひともねの うらぶれ居(を)るに 龍田山 御馬近づかば 忘らしなむか」
ひともね:未詳。「人皆」の方言か。大宰府付近の山名と見る考えもある。
878番歌
訳文
「お別れの寂しさを今は何やかや申してはいるものの、後になって思い知られるのでしょう。ちっとやそっとの寂しさではありますまい。あなたがいらっしゃらなくなったら」
書き下し文
「言ひつつも 後こそ知らめ とのしくも 寂(さぶ)しけめやも 君いまさずして」
とのしくも:次句n修飾語らしいが、前歌とともに方言を用いることで、土地に残る者の悲別を深めようとしたものか。
879番歌
訳文
「いついつまでも長寿をお保ちになって、天下の政事をお執りください。朝廷を去らずに」
書き下し文
「万代(よろづよ)に いましたまひて 天の下 奏(まを)したまはね 朝廷(みかど)去らずて」
官人の意識を貫く歌によって全体を閉じている。ただし、この願いは882番歌(次回469に記載予定)の憶良の私情と裏腹の関係を示す。
もうひとつのブログ「風景夢譚」の331の白毫寺の画像の続きです。
では、今日はこの辺で。