456.巻五・855~857:蓬客のさらに贈る歌三首
蓬客:蓬のような卑しいさすらい人の意。812番歌の前文「蓬身」参照。以下三首の実作者は、854番歌までの歌を旅人から披露された某大宰府官人らしい。
855番歌
訳文
「松浦川の川瀬はきらめき、鮎を釣ろうと立っておられるあなたの裳裾が美しく濡れています」
書き下し文
「松浦川 川の瀬光り 鮎釣ると 立たせる妹が 裳の裾濡れぬ」
輝くばかりの女性美を述べて男の関心を覗かせた歌。
856番歌
訳文
「ここ松浦の玉島川で鮎を釣ろうと立っておられるあなたがたの家をお訪ねしたいのですが、その道がわからなくて残念です」
書き下し文
「松浦なる 玉島川に 鮎釣ると 立たせる子らが 家道知らずも」
前歌を承けて、家を訪れたいのだがと切り込んだ歌。
857番歌
訳文
「遠くにいる人を待つという名の松浦の川で若鮎を釣るあなたの手を、私はぜひ枕にしたいものです」
書き下し文
「遠つ人 松浦の川に 若鮎釣る 妹が手本を 我れこそまかめ」
さらに切り込んで本心を打ち明けた歌。
では、今日はこの辺で。