452.巻五・815~846:梅花の歌三十二首あわせて序(六の六:841~846番歌)
841番歌
訳文
「鶯の鳴く声をちょうど耳にしたその折しも、梅の花がこの我らの園に咲いては散っている」
書き下し文
「うぐいすの 音聞くなへに 梅の花 我家の園に 咲きて散るみゆ」対馬目高氏老
842番歌
訳文
「この我らの庭の梅の下枝を飛び交いながら、鶯が鳴き立てている。花の散るのをいとおしんで」
書き下し文
「我がやどの 梅の下枝に 遊びつつ うぐいす鳴くも 散らまく惜しみ」薩摩目高氏海人
843番歌
訳文
「梅の花を手折り髪にかざしながら人々が楽しく遊ぶのを見ると、そぞろに奈良の都が偲ばれる」
書き下し文
「梅の花 折りかざしつつ 諸人の 遊ぶを見れば 都しぞ思ふ」土師氏御道
844番歌
訳文
「いとしい子の家に行きというではないが、雪が降るのかと見まごうばかりに、梅の花がしきりに散り乱れている。美しくも好ましい花よ」
書き下し文
「妹が家に 雪かも降ると 見るまでに ここだもまがふ 梅の花かも」小野氏国堅
845番歌
訳文
「鶯が待ちかねていた折角の梅の花よ、散らずにいておくれ。そなたを思う子、鶯のために」
書き下し文
「うぐひすの 待ちかてにせし 梅が花 散らずありこそ 思ふ子がため」筑前掾門石足
846番歌
訳文
「霞の立つ長い春の一日中、髪に插しているけれど、ますます離しがたい気持だ、この梅の花は」
書き下し文
「霞立つ 長き春日を かざせれど いやなつかしき 梅の花かも」小野淡理
では、今日はこの辺で。