97.万葉集に詠まれている花(29)たちばな:橘
もう十日ほど前の1月16日に、札幌市の百合が原公園緑のセンターで開催されている「みかんなどの柑橘展」を鑑賞しました。
冬季に温室とはいえ花を見ますと心和みます。
北海道では、平均気温や最低気温などがかなり低いため、柑橘類は庭に自生していません。
本州ではお庭に蜜柑などの柑橘類のきれいな花が咲くのでしょう。
橘は、ニッポンタチバナまたはミカンのこと、もしくはミカン類の総称と考えられているようです。
集中七十二首詠まれているようで、その中に「あべたちばな(阿倍橘)」としてダイダイが一首詠まれています。
巻2・125、179、巻3・410、411、423、巻6・1009、1027、巻7・1315、1404、巻8・1473、1478、1481、1483、1486、1489、1492、1493、1502、1504、1597、1508、1509、巻9・1755、巻10・1950、1954、1958、1966、1967、1968、1969、1971、1978、1980、1987、1990、2251、巻11・2489、2750、巻13・3239、3307、3309、巻14・3496、3574、3779、巻16・3922、3823、巻17・3909、3912、3916、3918、3920、3984、3998、巻18・4058、4059、4060、4063、4064、4092、4101、4102、4111、4112、巻19・4166、4169、4172、4180、4189、4207、4266、4276、巻20・4341、4371
橘は、植物学的にどの植物であるかを特定することは難しいようです。
タチバナとは元来、食用ミカンを総称する古名ですが、わが国固有の、最も古くから存在する品種として、ニッポンタチバナをタチバナに当てているようです。
6月ころ、白色の清楚な花が多数つき、素晴らしい芳香をあたり一面に漂わせるそうです。
小さい緑色の果実を結び、冬になって鮮やかな黄色に熟し、正月などの飾り物になります。
果実は酸っぱくて、そのままでは食べられないようですが、各種の料理とよくあい、特に日本料理の味を引き立てます。
登場する橘の中には、花橘という名称のほか、玉に貫くという言葉がたくさん出てくることから、食用に適さない小ミカンのようなもので、花を鑑賞するために植栽されていたようです。
古事記では、橘は非時香果(ときじくかくのこのみ)とされています。
時ならぬ意で、「香り高い果実」という意味のようです。
この花木は嘉祥植物として定着していくようです。
名前は、この実を持ち帰った田道間守(たじまもり)→多遅花に由来するといわれています。
京都御所の紫宸殿の「右近の橘」に、培養品種のタチバナを見ることができるようです。
また、文化勲章は、この橘花をかたちどった章に淡紫色の綬(じゅ:勲章のひも)がついたものとのことです。
タチバナは、万葉人に愛された花の一つといえるようです。
「橘は 実さへ花さへ 枝(え)に霜降れど いや常葉の木」
聖武天皇(巻6・1009)
(タチバナは、実までも花までも、またその葉さえも、枝に霜が降っても、ますます栄えるめでたい木である)、
「君が家の花橘は成りにけり 花なる時に逢はましものを」
大伴坂上郎女(巻8・1492)
(あなたの家の花橘はもう実になってしまいました。花であった時に逢えたらよかったのに)
橘と雀公鳥(ほととぎす)を組み合わせて詠んだ歌が多いようです。
「わが屋戸前(やど)の 花橘に 雀公鳥 今こそ鳴かめ 友逢える時」
大伴書持(ふみもち)(巻8・1481)
(私の家の花橘に、雀公鳥は今こそ鳴くだろう。こうして友と逢っている時に)
そして、集中一首の「あべたちばな」の歌。
「我妹子(わぎもこ)に逢わず久しもうまし物 阿倍橘(あべたちばな)のこけ生すまでに」
(巻11・2750)
(吾妹子に逢わず久しいことよ。りっぱな阿倍橘にこけがはえるまでに)
うまし物から食用となる植物であろうとし、橙のなかのクネンポ説に支持が多いとか。
クネンポは漢名で「橘」とし、渡来したものではないかといわれています。
で、今年初めてのブログへの書き込みです。
またの機会に橘を詠んだ歌を整理したいと思います。
<せとか>すきなミカンです。