万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

131.巻一・51:明日香の宮より藤原宮に遷居(うつ)りし後に、志貴皇子の作らす歌

志貴皇子は、吉野盟約の六皇子の一人です。吉野盟約については、119.:巻一・27に記載しました。一読を。天智天皇の第七皇子で、壬申の乱以後は現実から逃避し隠者風に身を処したようです。奈良の白毫寺は皇子の別荘でした。2008年2月と2010年3月にお寺を訪ねています。

51番歌

訳文

采女(うねめ)の袖を吹き返していた明日香風は、都が遠のいたのでいまはむなしく吹いている」

書き出し文

采女の 袖吹き返す 明日香風 京を遠(とほ)み いたづらに吹く」

下の中西 進氏の「よみがえる万葉大和路」に飛鳥藤原でこの歌が紹介されています。井上博道氏の美しい写真とともに。写真は飛鳥より藤原京をのぞむ、右に香具山、左に耳成山。そのほかに三冊本を参考にしました。中西氏の本から引用します。

f:id:sikihuukei:20170723030247j:plain

「・・・草壁皇子は持統三年(六八九)に死んでしまう。この死によって、持統天皇藤原京への遷都決意する。しかし、約百年もの間、日本政治の中心であった華やかな都、飛鳥の姿は、万葉びとの心に生き続けた。この歌は飛鳥浄御原宮から藤原宮に遷都したのち、志貴皇子が作った歌である。都が遷ると建物は屋根瓦や柱など、古いものをまた使うから、荒廃の感は急速に訪れたことであろう。すべて取り払われてしまった宮跡に立って、志貴皇子はっその荒廃を嘆く。あの美しい采女の袖に吹いていた風は、今や都が遠ざかってしまった」ので、むなしく吹き抜けるばかりだ、と。・・・

・・・過去を抱えながら、そのために清らかな生活を送りえたようである。志貴のそのような性質をみても、この歌はまことに彼らしい。「采女」は古代豪族の娘であった。それが美しく着飾っている。「袖吹き返す」の「袖」は、おしゃれなものであったらしい。また、当時は愛を交わすことを、「袖交わす」とよんでいたので、袖は古代人とって愛のシンボルでもあった。その袖を、ひるがえし戯れる風が「明日香風」である。「明日香風」は斬新な造語である。飛鳥の地は山を越えて大和平野に吹きこんだ風が吹き寄せてくる、風の強い土地だったように思う。

しかし、采女はすでに去り、明日香風が袖を吹き返したのも過去のこと。いまはその風が吹きとおるだけの飛鳥の都である。喪失の悲しみとあいまって、美しい幻想の中に昔のことを思い出す。すばらしい追憶である

「・・・実際には二つの都は直線距離にしてわずか3.5㎞である。その距離を「都を遠み」と歌うのは、現実の距離と心の距離との乖離を意味している。・・・」と下の本の明日香正宮(頁62)で記載している。また、明日香宮あとは、現在の「伝飛鳥板蓋宮跡(でんあすかいたぶきみやあと)」です。

f:id:sikihuukei:20170723030328j:plain

訳文と書き出し文は下の本を引用しました。また、「この歌は、藤原宮造営に奉仕する役民の歌(50番歌)と、藤原宮の御井の歌(巻一・52、53)という二つの新都讃歌に挟まれて、旧都を惜しむ」と記載しています。下の本に。

f:id:sikihuukei:20170624043343j:plain

天智天皇と越道君伊羅都売(こしのみちきみのいらつめ)の間に志貴皇子は生まれる。吉野盟約に参加した六人の皇子のなかの一人で、天武天皇の御代には政治的には必ずしも恵まれなかったが、歌人として優れた一面を持ち合わせていた。「萬葉集」の収載歌は、短歌ばかり六首を数える。歌数はすくないものの、そのどれもが味わい深い。・・・」と下の本に記載してあります。

f:id:sikihuukei:20170627021550j:plain

六首の中で、巻八・1418のわらびの歌が好きです。

51番歌は、藤原宮への遷都後、どのくらい後に詠んだ歌だろうか。飛鳥の宮跡は2010年3月に訪れたのですが、写真が見つけられません。見つけたので下に貼り付けました。宮跡から飛鳥寺へと歩いたことが思い出されます。

f:id:sikihuukei:20170723040231j:plain

f:id:sikihuukei:20170723040354j:plain

奈良の白毫寺です。

f:id:sikihuukei:20170723031917j:plain

f:id:sikihuukei:20170723032011j:plain

f:id:sikihuukei:20170723032105j:plain

f:id:sikihuukei:20170723032127j:plain

白毫寺に咲く

f:id:sikihuukei:20170723032215j:plain

f:id:sikihuukei:20170723032321j:plain

奈良市内をのぞむ

f:id:sikihuukei:20170723032436j:plain

f:id:sikihuukei:20170723032534j:plain

奈良旅行を思い出しながら、記載しました。

このブログの28.に「奈良大和路の思い出」を記載してあります。

では、この辺で、また明日記載します。