万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

438.巻五・794~799:日本挽歌一首と反歌五首

日本挽歌:日本文による挽歌の意。前の漢詩文に対する称。

794番歌

訳文

「都を遠く離れた君の政庁だからと、この筑紫の国に、鳴く子のようにむりやりついて来て、息も休めず年月もいくらも経たないのに、思いもかけずぐったりと臥してしまわれたので、どう言ってよいかどうしてよいかもわからず、せめて庭の岩や木に問いかけて心を晴らそうとするがそれもかなわず、途方に暮れるばかりだ。

ああ、あのまま奈良の家にいたら、しゃんとしていられたろうに、恨めしい妻が、この私にどうせよとて、かいつぶりのように、二人並んで夫婦の語らいを交わしたその心に背いて、家を離れて行ってしまわれたか」

書き下し文

「大君の 遠(とほ)の朝廷(みかど)と しらぬひ 筑紫の国に 泣く子なす 慕ひ来まして 息だにも いまだ休めず 年月も いまだあらねば 心ゆも 思はぬ間に うち靡き 臥(こ)やしぬれ 言はむすべ  為(せ)むすべ知らず 石木をも 問ひ放(さ)け知らず 家ならば かたちはあらむを 恨めしき 妹の命の 我れをばも いかにせよとか にほ鳥の ふたり並び居 語らひし 心背きて 家離(ざか)りいます」

前の漢詩文が三か月ほど後の供養の日に妻を偲ぶ形をとるのに対し、歌は、葬った後に妻を偲ぶ形をとる。

しらぬひ:筑紫の枕詞。

臥(こ)やしぬれ:「臥やす」は死ぬことの敬避表現。

恨めしき:以下、亡妻に対するこの挽歌独特のくどき文句。

家離りいます:死んで墓にこもったことをう。亡妻を懐かしみ尊ぶ気持の現れである。

反歌

795番歌

訳文

「あの奈良の家に帰って、私は何としよう。二人して寝た妻屋がさぞ寂しく思われることだろう」

書き下し文

「家に行きて いかにか我(あ)がせむ 枕付く 妻屋寂しく 思ほゆべしも」

枕付く:妻屋の枕詞。枕を付けて寝る意か。

796番歌

訳文

「ああ、遠い夷(ひな)地、筑紫で死ぬ定めだったのに、むりやり私について来た妻の、その心が何とも痛ましくてならない」

書き下し文

「はしきょし かくのみからに 慕ひ来(こ)し 妹が心の すべもすべなき」

はしきよし:感動を示す独立句。

797番歌

訳文

「ああ残念だ。ここ筑紫で死ぬとあらかじめ知っていたなら、故郷奈良の山や野をくまなく見せておくのだったのに」

書き下し文

「悔しいかも かく知らませば あをによし 国内(くぬち)ことごと 見せましものを」

本郷をありたっけ見せてその魂を付着させてあけば、こんな異国で死なずにすんだのにというのであろう。

798番歌

訳文

「妻が好んで見た楝(あふ(う)ち)の花は、いくら奈良でももう散ってしまうにちがいない。妻を悲しんで泣く私の涙はまだ乾きもしないのに」

書き下し文

「妹が見し 楝の花は 散りぬべし 我が泣く涙 いまだ干なくに」

咲くのも散るのも奈良より早い筑紫の楝を眺めつつ、妻にちなみの物がここもかしこも消えてしまうのを嘆いた歌。妻は筑紫の楝を賞でながら死んだのである。

楝:陰暦三月下旬に咲く。花期二週間。「あふち」に逢うの意を懸け、下の「散りぬべし」に再び逢うことがかなわぬことをにおわせている。

799番歌

訳文

「大野山に霧が立ちこめている。ああ、私の嘆く息吹の風で霧が一面に立ちこめている」

書き下し文

「大野山 霧立ちわたる 我が嘆く おきその風に 霧立ちわたる」

大野山:大宰府の背後に当たる四王寺山。

引用した本です。

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昨日に続き春日大社の画像を貼り付けます。

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次回はささやきの小道などを貼り付けます。

では、今日はこの辺で。