430.巻四・765~768:久邇の京に在りて、寧楽(なら)の宅に留まれる坂上大嬢を思(しの)びて、大伴宿禰家持が作る歌一首ほかに三首
久邇:475番歌参照。家持は当時内舎人(うどねり)であったので、宮仕えのため奈良を離れて久邇京にいた。
寧楽(なら)の宅:坂上の里にあった母の家であろう。
765番歌
訳文
「山一つ隔てていて行けるはずもないのに、いい月夜なのであの人は門の外に立って、私の訪れを心待ちにしていることであろうか」
書き下し文
「一重山 へなれるものを 月夜(つくよ)よみ 門に出で立ち 妹が待つらむ」
山を隔てた異郷で、訪れることのできない家を思う歌。
へなれる:「へなる」は隔てとなる、の意。
月夜:妻どいに都合のよい月明の夜。
766番歌:藤原郎女、これを聞きて即(すなわ)ち和ふる歌
藤原郎女:伝未詳。久邇京に仕えた女官であろう。
これを:前の家持の歌を耳にして、即刻それに唱和した意。
訳文
「道が遠くてとても来られまいとわかっていながら、そうしてお待ちになっていることでしょう。あなたに一目逢いたいばかりに」
書き下し文
「道遠み 来じとは知れる ものからに しかぞ待つらむ 君が目を欲り」
しかぞ待つ:「しか」は前歌の第四句を承けて指示したもの。
目を欲り:目と目を見合せることを欲する意。逢いたいことをいう。
大伴宿禰家持、さらに大嬢に贈る歌二首(767、768番歌)
さらに:741番歌参照。
767番歌
訳文
「この久邇の都までの道が遠いからだろうか。あなたはこのごろ、いくら神様に祈って寝ても夢の中に逢いに来てくれないね」
書き下し文
「都道(みやこぢ)を 遠みか妹が このころは うけひて寝(ぬ)れど 夢に見え来ぬ」
これほど思っているから相手が夢に見えるはずだと神に祈誓したのに、見えないと歌っている。
うけひて:「うけふ」は神の立会いのもとに発言することで、望むことの実現を期待する呪的行為をいう。
遠み:前歌の「道遠み」を承けたもの。
768番歌
訳文
「今、大君のいます都、この久邇でお仕えしているままに、あなたに逢わずにずいぶん久しくなってしまった。早く奈良へ行って逢いたいものだ」
書き下し文
「今知らず 久邇の都に 妹に逢はず 久しくなりぬ 行きて早見な」
知らず:統治される。ここは都と定めておられる、の意。上二句は765番歌の上二句「異郷」をを意識したもの。
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南円堂
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五時十五分、では、今日はこの辺で。