429.巻四・762・763・764:紀郎女、大伴宿禰家持に贈る歌二首 郎女、名を小鹿(をしか)といふ 大伴宿禰家持が和ふる歌一首
平成三十年西日本豪雨(十二府県)でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたします。
また、被害にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げます。
紀郎女:643番歌注参照、家持が最も心を許して恋の遊びをした相手で、家持より年上らしい。
762番歌
訳文
「もう年だから恋どころではないと拒むわけではありません。そうは言うものの、こうしてお別れした後でふと寂しくなるのではないかしら」
書き下し文
「神(かむ)さぶと いなにはあらず はたやはた かくして後に 寂(さぶ)しけむかも」
未練は残ると言い加えて、相手をそらさぬ形を取りながら求愛をこばむ歌。
神さぶ:ここでは老いている、の意。
はたやはた:その反語、の意。「はた」を重ねて強調したもの。
763番歌
訳文
「命を繋ぎとめる玉の緒を、沫緒(あわお)のようにやんわり縒り合わせて心と心を結んでおいたなら、生き長らえて後にもお逢いできるのではないでしょうか」
書き下し文
「玉の緒を 沫緒に搓(よ)りて 結べらば ありて後にも 逢はずにあらめやも」
細く長く生き続ければ気がねなしに逢えることもあろうと、今逢うことを言外に断る歌。前歌の「後に」を承けている。
玉の緒:命の意。命長らえたさまをいう前歌の「神さぶ」に対する。
沫緒:糸を緩く縒り合わせた緒をいう。伸縮の融通性をもつものとして持ち出されたか。
結べらば:「ら」は完了の助動詞「り」の未然形。
764番歌
訳文
「あなたが、老舌をのぞかせ、よぼよぼした百歳の婆さんになっても、私はけっしていやがったりしません。恋しさが募ることはあっても」
書き下し文
「百年(ももとせ)に 老舌出でて よよむとも 我れはいとはじ 恋ひは増すとも」
年齢にこだわる形の婉曲な拒絶を戯歌めいた口ぶりで受けとめ、いつまでも心変わりしないと答えた歌。
この三首「老人(おいびと)の恋」を主題にしたやりとりであろう。
老舌出でて:老人になって抜けた歯の間から舌の先が見えるさまをいう。
よよむ:腰が曲がってひょろひょろする意。
引用した本です。
奈良東大寺近くの依水園の画像を貼り付けます。
東大寺南大門が見えます。
では、今日はこの辺で。
朝四時四十五分です。