424.巻四・741~755:さらに大伴宿禰家持、坂上大嬢に贈る歌十五首(三の一:741~745番歌:第一群)
さらに:727番歌からの十四首のやりとりに対するまとめとして据えたことをしめします。470番歌、767番歌、777番歌題詞も同じ。
以下五首ずつ三群に分かれ、群ごとに共通の主題を持ち、さらに第一群と末尾が「遊仙窟」を踏まえる形で照応する、という構造を持つらしい。
第一群:「直(ただ)の逢い」ならぬ「夢の逢い」を主題として展開する。
741番歌
訳文
「夢で逢うのはつらいものだ。目を覚まして手探りしても、あなたはおろか何も手に触れないのだから」
書き下し文
「夢の逢ひは 苦しくありけり おどろきて 掻き探れども 手にも触れねば」
この歌は、「遊仙窟」の「夢ニ十娘ヲ見ル。驚キ覚メテ之ヲ攪レバ忽然ニシテ手ヲ空シクス」による。
742番歌
訳文
「あなたが結んでくれる時には一廻りだけのこの帯でさえ三廻りするほど、私は恋の思いにすっかり体が痩せ細ってしまった」
書き下し文
「一重(ひとへ)のみ 妹が結ばむ 帯をすら 三重結ぶべく 我が身はなりぬ」
「遊仙窟」の「日々衣寛ビ朝ナ朝ナ帯緩ブ」を踏まえ、前歌の「苦し」の結果を自らの姿を通して示している。
743番歌
訳文
「私の恋心は、千引の石を七つも首に掛けるほど、ずしりとこたえてこの身をさいなむことであろう。あらがえぬ神の定めのままに」
書き下し文
「我が恋は 千引の石を 七ばかり 首に懸けむも 神のまにまに」
「遊仙窟」を踏まえる前二首に対して、記紀神話に見える「千引の石」に寄せて恋の苦悶を訴えている。
千引の石:千人がかりで引くほど重い石。
744番歌
訳文
「夕方になれば家の戸口をあけて心待ちに待とう。夢で逢いに来ようというあの人を」
書き下し文
「夕さらば 屋戸開け設(ま)けて 我れ待たむ 夢に相見に 来むといふ人を」
741番歌の「夢」を受け止め、前二首で嘆いた恋心をわずかに癒す夢に望みを託した歌。
冒頭に首に応じて、「遊仙窟」の「今宵戸ヲ閉ザスコトナカレ。夢ノ裏ニ渠(きみ)ガ辺リニ向ハム」を踏まえる。
745番歌
訳文
「たとえ朝夕顔を合わせるようになった時でさえ、私はきっと、逢っていても逢ってはいないかのように、やはりあなたに恋い焦がれることであろう」
書き下し文
「朝夕に 見む時さへや 我妹子が 見れど見ぬごと なほ恋しけむ」
逢えない嘆きを裏側から表現した歌。
「我妹子」と呼びかけて「夢」の世界に訣別することで第一群を歌い納め、現実的な第二群へつないでいる。
引用した本です。
夜半からの雨が降り続いています。
台風崩れの低気圧が、道内を通過中です。
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次回は二月堂を貼り付けます。
では、今日はこの辺で。