423.巻四・737~740:同じき大嬢、家持に贈る歌二首 また家持、坂上大嬢に和ふる歌二首
737番歌
訳文
「とやかく人が噂を立てて私たちの間に関を置こうとしても、若狭にある後瀬の山の名のように、せめて後にお逢いしましょうね、あなた」
書き下し文
「かにかくに 人は言ふとも 若狭道の 後瀬の山の 後も逢はむ君」
後瀬の山:福井県小浜市南部、若狭国府のさばの山。家持らとの縁はたどりにくい。後も逢の意をこめてた歌枕的な地名か。
後も:「も」はできたら今も、の心を表す。
738番歌
訳文
「世の中とは、ほんとはこんな苦しいものだったのですね。恋の思いにたえかねて死んでしまいそうな、こんな気持を思いますと」
書き下し文
「世の中し 苦しきものに ありけらし 恋にあへずて 死ぬべき思へば」
世の中し:この「世の中」には、男女の仲という意識が含まれる。2385番歌参照。「し」は文末の「らし」に応ずる係助詞。
739番歌
訳文
「後瀬山の名のように、私もこの後いつかきっと逢おうと思っているからこそ、死ぬはずのところを今日まで生き長らえているのです」
書き下し文
「後瀬山 後も逢はむと 思へこそ 死ぬべきものを 今日までも生けれ」
737番歌の「後瀬の山」を枕詞に転じて承け、前歌の「死にべき」を自らの恋心に転じて承けている。
740番歌
訳文
「口先だけは、せめて後に逢いましょうなどと、ねんごろに私に望みをつながせておいて、いざとなれば逢わないつもりではありますまいね」
書き下し文
「言のみを 後も逢はむと ねもころに 我れを頼めて 逢はざらむかも」
737番歌の「後も逢はむ」を、今は逢いたくないという意味ではないだろうな、と問い返した歌。
引用した本です。
夜半からの強い雨も、朝には弱まりました。
蒸し暑く、蝦夷梅雨ですね。
台風が気になります。
では、今日はこの辺で。