万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

421.巻四・729~734:大伴坂上大嬢、大伴宿禰家持に贈る歌三首、また、大伴宿禰家持が和(こた)ふる歌三首

また、:740番歌に至るやりとりで、家持の歌には「また」、大嬢の歌には「同じき」を冠しているが、これは家持の立場でまとめられていることを示します。

729番歌

訳文

「あなたが玉なら手に巻きつけてけっして離すまいものを、生身の人なので手に巻くこともできません」

書き下し文

「玉ならば 手にも巻かむを うつせみの 世の人なれば 手に巻きかたし」

離絶以前の家持からの贈歌と思われる403番歌を意識した歌だが、直接には「付く」と「巻く」の縁で727番歌に応じ、次の730、731番歌は「人言」の縁で728番歌に対している。

730番歌

訳文

「お逢いできる夜は他にもあったでしょうに、どうしてまたあの夜になんかお逢いして、こんなうるさい噂の種になってしまったのでしょう」

書き下し文

「逢はむ夜は いつもあらむを 何すとか その宵逢ひて 言の繁きも」

731番歌

訳文

「私の浮名はどんなにひどく立とうと我慢できますが、でもあの夜のことであなたの浮名が立ったなら、それこそくやしくて泣かずにはおれません」

書き下し文

「我が名はも 千名(ちな)の五百名(いほな)に 立ちぬとも 君が名立たば 惜しみこそ泣け」

我が名はも:「はも」は、ここでは心を残しつつあきらめざるをえない嘆きを表す。

千名(ちな)の五百名(いほな)に:噂の激しさを誇張して言ったもの。

(また、大伴宿禰家持が和(こた)ふる歌三首)

732番歌

訳文

「やっとお逢いできた今はもう、名を惜しむ気持など私にはさらさらありません。あなたのせいなら千度も浮名が立ったとしても」

書き下し文

「今しはし 名の惜しかくも 我れはなし 妹によりては 千たび立つとも」

人目を恐れて控えめに恋を表明した前歌に答えて、浮名が立つのもはばからないと積極的に出た歌。

今しはし:「今し」は今の時点を強く限定する語。「はし」でそれを取り立てて第三句の「なし」につなぐ。

733番歌

訳文

「この現世が別にもう一つ並んで過ぎて行くことがあろうか。かけがえのないこの夜を、あなたに逢わぬまま、どうして独り寝ができようか」

書き下し文

「うつせみの 世やも二行(ふたゆ)く 何すとか 妹に逢はずて 我がひとり寝む」

730番歌で歌われた思い出の一夜を今夜に転嫁し、「何すとか」の語を承け用いて応える歌。

うつせみの:「世」の枕詞。現実の、という原義も響く。

二行(ふたゆ)く:同種のものが対立する形で平行的に進行する意。ここは、独り寝の一方で逢うということが起こることをいう。

734番歌

訳文

「これほど苦しい恋の思いをせずにいっそ玉でありたい。そして、あなたのおっしゃるように、あなたの手に巻かれていよう」

書き下し文

「我が思ひ かくてあらずは 玉にもが まことも妹が 手に巻かれなむ」

729番歌に対し、「まことも」と共感する形で答えた歌。

引用した本です。

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穏やかな曇り空で、朝を迎えました。

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奈良国立博物館

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では、今日はこの辺で。