418.巻四・723・724:大伴坂上郎女、跡見(とみ)の庄(たどころ)より、宅(いへ)に留まれる女子(むすめ)、大嬢に賜ふ歌一首 あわせて短歌
跡見(とみ):奈良県桜井市東方の地か。大伴氏私領の田地があった。坂上郎女は家刀自として田の神を祭るためにその地へ行ったか。
宅:坂上の家。
賜ふ:親(上)から子(下)に与えるという意。
723番歌
訳文
「常世の国へ私が行ってしまうわけでもないのに、門口に見送って悲しそうにうなだれて沈みこんでいたわが子、留守居の家刀自のことを、夜昼となく思うのでこの身は痩せ細ってしまった。嘆くので袖も涙に濡れた。こう気がかりでやたら恋しくては、ここ故郷の跡見にそう幾月もいられいられはしないだろう」
書き下し文
「常世にと 我が行かなくに 小(を)かな門(ど)に もの悲しらに 思へりし 我が子の刀自を ぬばたまの 夜昼といはず 思ふにし 我が身は痩せぬ 嘆くにし 袖さへ濡れぬ かくばかり もとなし恋ひば 故郷に この月ごろも 有りかつましじ」
残して来た娘への気がかりを述べることを通して、娘の気持を引き立て励ます歌。
常世:海外の理想郷の意にも死後の国の意にも用いるが、いずれも常人の到りがたい遠い異郷である。娘のしょげ方の大仰さをこの語を通して示す。
小かな門:小は接頭語。かな門は、家の入口。
刀自:留守居の長女を臨時の主婦と見立てたもの。
故郷:大伴氏の古くからの所領、跡見をさす。
724番歌
訳文
「寝起きの髪のように思い乱れて、おねいさんのお前がこんなに私を恋しがるから、夢にお前の姿が見えましたよ」
書き下し文
「朝髪の 思ひ乱れて かくばかり 汝姉(なね)が恋ふれぞ 夢(いめ)に見えける」
右の歌は、大嬢が奉る歌に報(こた)へ賜ふ。
朝髪の:「思ひ乱れる」の枕詞。
かくばかり:ここに収録されていない相手の贈歌の内容を承けたもの。
汝姉:弟妹の姉に対する呼びかけの語を母が用いたもの。引用した本です。
今朝も蝦夷梅雨のような曇り空の朝です。
でも、World Cup Russia 2018で日本が決勝トーナメント進出を決めたニュースは、小樽の梅雨空を払うように思われました。
2008年2月下旬の奈良の興福寺です。
では、今日はこの辺で。