万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

373.巻四・587~610の内の595~602:笠郎女、大伴宿禰家持に贈る歌の二十四首の内の八首(3-2)

三群

595番歌

訳文

「私がこの世に生きているかぎり、あの方を忘れることがあろうか。日ましにますます恋しさの慕ってゆくことはあっても」

書き出し文

「我が命の 全(また)けむ限り 忘れめや いや日に異(け)には 思ひ増すとも」

類歌2882番歌。

いや日に異:今日よりは明日、明日よりは明後日と、どんどん程度が強まるさまをいう。

596番歌

訳文

「通り過ぎるのに八百日(やほか)もかかるほど広い浜の砂でさえも、この私の恋の重荷にくらべればとてもかなうまいね。沖の島守よ」

書き出し文

「八百日行く 浜の真砂も 我が恋に あにまさらじか 沖つ島守」

突拍子もない分量を引き合いに出して、恋心の激しさを誇張した歌。

597番歌

訳文

「この世間の人目が多いので、それをはばかって、ほんの近くにおられるあなたに、逢うこともなく恋いつづけている私です」

書き出し文

「うつせみの 人目を繁み 石橋の 間近き君に 恋ひわたるかも」

空想を広げて激しい恋の嘆きを歌った前の二首に対して、この歌では現実を見すえた形になっている。

598番歌

訳文

「恋の苦しみのためにだって人は死ぬことがあるもの。人知れず私はどんどん痩せ細るばかりです。月ごと日ごとに」

書き下し文

「恋にもぞ 人は死にする 水無瀬川 下ゆ我れ痩す 月に日に異(け)に」

四群

599番歌

訳文

「おぼろげに見ただけのあの方なのに、私は死ぬほど激しく恋いつづけているのです」

書き出し文

「朝霧に おほに相見し 人故に 命死ぬべく 恋ひわたるかも」

類歌3003番歌。

600番歌

訳文

「伊勢の海の磯をとどろかして打ち寄せる波、その波のように恐れ多いお方に私は恋いつづけているのです」

書き出し文

「伊勢の海の 磯もとどろに 恋する波 畏き人に 恋ひわたるかも」

前歌とともに、抑えても抑えきれない恋心を歌った。

601番歌

訳文

「ついぞ思ってもみなかった。山や川を隔てて離れているわけでもないのに、こんなに恋に苦しむことになろうとは」

書き出し文

「心ゆも 我は思はずき 山川も 隔たらなくに かく恋ひむとは」

602番歌

訳文

「夕方になると、ひとしお物思いが慕ってくる。前にお逢いした懐かしい方の、物を言いかけて下さる姿が目の前にちらついて」

書き出し文

「夕されば 物思ひまさる 見し人の 言とふ姿 面影にして」

第二群四首目の594番歌と、心情的に近い。

引用した本です。

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では、今日はこの辺で。