311.巻三・434・435・436・437:和銅四年辛亥に、河辺宮人、姫島の松原の美人(をとめ)の屍を見て、哀慟しびて作る歌四首
これと類似の題詞が228番歌に見える。それと同じく、姫島伝説を思いおこして歌われた物語的な歌か。
434番歌
訳文
「風早の美保の海辺に咲き匂う白つつじ、それを見ても心がなごまない。亡き人が思われて」
書き出し文
「風早の 美保の浦みの 白つつじ 見れども寂(さぶ)し なき人思へば」
美保:次歌に「久米の若子」とあるので307番歌の「三穂」か。ここは風が激しいので、「風早の」といった。このあたりにも姫島があったか。
白つつじ:おとめが死んで白つつじに化したという伝えがあったか。
つつじとして登場する歌は案外少なく、わずか六首であり、白つつじとして詠まれているものを加えると九首になるという。
集中に歌われているツツジについても「つつじ花」とあるほか、「丹つつじ」、「白つつじ」、「石つつじ」と表現されているにすぎません。
色によって分けていたのですね。
435番歌
訳文
「久米の若子が手を触れたという磯辺の草が、枯れてしまうのはなんとしても残念だ」
書き出し文
「みつみつし 久米の若子(わくご)が い触れけむ 磯の草根の 枯れまく惜しも」
姫島美人を直接悼んだ前歌に対し、相手の久米の若子との関わりにおいて美人を悼んだもの。
みつみつし:久米の枕詞。厳めしく、勢いの強い意か。
久米の若子:姫島美人の相手とみられる男か。
い触れけむ 磯の草根:若子が愛しんだ美人を譬えたもので、二人が共寝をした場所をもにおわす。
436番歌
訳文
「近頃は人の噂がうるさくて逢えませんが、あなたがもし玉であったら、いつもわが手に巻きたずさえて、こんなに恋い焦れずにいられましょうに」
書き出し文
「人言の 繁きこのころ 玉ならば 手に巻き持ちて 恋ひずあらましを」
一転して二人の生前の愛の生活を歌うことによって、鎮魂の意を表したものか。これは女の立場の歌。
玉:磯辺の石や貝。前歌の磯の縁で続けたもの。ただし、私のHPにある万葉集の貝では、貝の歌としていないです。
437番歌
訳文
「あなたも私も清らかな仲だし、その名の清の川の川岸が崩れるように仲が壊れてあなたが悔いる、そんなうわついた気持を抱くことなどありません」
書き出し文
「妹も我れも 清の川の 川岸の 妹が悔ゆべき 心は持たじ」
前歌を承けた男の歌。類歌3365番歌。
妹も我れも:「清」の枕詞。
清の川:未詳。明日香の清御原あたりを流れる飛鳥川の一名か。
引用した本です。
今朝の積雪はゼロでしたが、朝食後雪がちらちらと降ったり止んだりしていました。
寒さは厳しいです。
では、今日はこの辺で。