258.巻三・338~350の内の341~346:太宰帥大伴卿、酒を讃むる歌十三首の六首
341番歌
訳文
「分別ありげに小賢しい口をきくよりは、酒を飲んで酔い泣きしている方がずっとましだろう」
書き出し文
「賢しみと 物言ふよりは 酔ひ泣きするし まさりたるらし」
「賢しら」と「酔ひ泣き」とを対比し、後者を賞揚した歌。
前歌の「賢しき」を否定的に転じて「賢しみ」と続けた。
342番歌
訳文
「なんとも言いようも、しようもないほどに、このうえもなく貴い物は酒であるらしい」
書き出し文
「言はむすべ 為むすべ知らず 極まりて 貴きものは 酒にしあるらし」
次歌とともに前歌の主張を裏付けようとしたもの。
343番歌
訳文
「なまじっか分別くさい人間として生きているよりも、いっそ酒壺になってしまいたい。そうしたらいつも酒浸りになっておられよう」
書き出し文
「なかなかに 人とあらずは 酒壺に なりにてしかも 酒に染みなむ」
344番歌
訳文
「ああみっともない。分別くさいことばかりして酒を飲まない人の顔をよく見たら、小賢しい猿に似ているのではなかろうか」
書き出し文
「あな醜 賢しらをすと 酒飲まぬ 人をよく見ば 猿にかも似む」
前歌の「人とあらずは」の人を承けて続けた。
345番歌
訳文
「値のつけようがないほど貴い宝珠でも、濁り酒一杯にどうしてまさるといえようか」
書き出し文
「値なき 宝といふとも 一杯の 濁れる酒に あにまさめやも」
仏法にもまして酒こそ無常の宝だと賞揚した歌で、次歌とともに前歌の主張を裏付けようとしたもの。
値なき宝:仏典の「無価宝珠」(無上の法を譬えたもの)の訓読語。
346番歌
訳文
「夜光る貴い玉でも、酒を飲んで憂さ晴らしをするのにどうして及ぼうか、及ぶはずがない」
書き出し文
「夜光る 玉といふとも 酒飲みて 心を遣るに あにしかめやも」
観念的な前歌を承けて、やや具体的に飲酒のもたらす境地にまで歌い及んだ歌。
夜光る玉:「文選」等に見える。玉は世俗的な価値の高いものの代表として持ち出したもの。
引用した本です。
今日はこの辺で、次回に残りの四首を記載します。