214.巻三・265:長忌寸意吉麻呂が歌一首
265番歌
訳文
「辛いことに雨も降ってきた。この三輪の崎の狭野のあたりは家もありはしないのに」
書き出し文
「苦しくも 降り来る雨か 三輪の崎 狭野の渡りに 家もあらなくに」
新宮市で詠まれたとされる歌。
狭野の付近に本当に建物としての家がなかったと歌っているわけではない。
「万葉集」の旅の歌に登場する「家」は多くの場合、大和、都の自宅、そしてその自宅で帰りを待ち続けている妻にまで表現の射程が届く。
辛い旅の途中、降りだした冷たい雨は、旅人にも降り注ぐ。あたりを見回し、雨宿りの場所を探す。
人家がまばらというわけでもない。
しかし、人家には家庭があり、雨が降っても心まで冷たくなることはない。
その暖かさは大和の家の暖かさ、妻の温かさを思い起こさせ、決定的な「家」の不在を実感させてしまう。
「家もあらなくに」の嘆きは深い。新宮市の東北を流れる熊野川を渡ると三重県である。
下の本を引用しました。
五十年ほど前に新宮市は通り過ぎただけです。
パソコンの動きが遅くなりました。
室温11℃です。
では、このへんで。