万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

188.巻二・171~193:皇子尊の宮の舎人等、慟傷しびて作る歌二十三首

皇子:草壁皇子

171番歌

訳文

「輝くわが日の御子が、万代かけて国土を治められるはずであった島の宮なのに、なあ」

書き出し文

「高光る 我が日の御子の 万代に 国知らさまし 島の宮はも」

172番歌

訳文

「島の宮の上の池にいる放ち鳥よ、つれなくここを見捨ててゆかないでおくれ。あるじの君がおいでにならなくても」

書き出し文

「島の宮 上の池なる 放ち鳥 荒びな行きそ 君座(ま)さずとも」

173番歌

訳文

「輝くわが君の御子がこの世においでだったら、島の御殿は荒れずにあったろうに」

書き出し文

「高光る 我が日の御子の いましせば 荒れずあらましを

174番歌

訳文

「今まで何のゆかりもない所と見てきた真弓の岡なのに、いまはわが皇子がおいでになるので、水遠の御殿としてお仕えしているのだ」

書き出し文

「外(よそ)に見し 真弓の岡も 君座せば 常つ御門と 待宿(とのゐ)するかも」

175番歌

訳文

「こんなことになると、夢にさえ見はしなかったのに、心も晴れやらずに宮に出仕するのか。檜前(ひのくま)の道を通って」

書き出し文

「夢にだに 見ずありしものを おほほしく 宮出もするか さ檜の隈みも」

176番歌

訳文

「天地とともに水遠に、と思いつつ我が君にお仕え申していたが、その志も無になってしまった」

書き出し文

「天地と ともに終へむと 思ひつつ 仕へまつりし 心違(たが)ひぬ」

177番歌

訳文

「朝日の照る佐田の岡辺に一緒に待宿しながら、われらが泣く涙はやむ時もない」

書き出し文

「朝日照る 佐田の岡辺に 群れ居つつ 我が泣く涙 やむ時もなし」

178番歌

訳文

「皇子がよくお立ちになったお庭を見ていると、雨水が流れ出すように流れる涙は、とめようもない」

書き出し文

「み立たしの 島を見る時 にはたづみ 流るる涙 止めぞかねつる」

179番歌

訳文

「橘の島の宮では物足りないとて、われらはあの佐田の岡辺にまで待宿しに行くというのか」

書き出し文

「橘の 島の宮には 飽かねかも 佐田の岡辺に 待宿しに行く」

180番歌

訳文

「皇子がよくお立ちになったお庭をわが家として住む鳥も、ここを見捨てないでおくれ。せめて年がかわるまで」

書き出し文

「み立たしの 島をも家と 住む鳥も 荒びな行きそ 年かはるまで」

181番歌

訳文

「皇子がよくお立ちになったお庭の池の荒磯を、立ち帰って今また見ると、前には生えていなかった草が、あたりいっぱい生い茂っている」

書き出し文

「み立たしの 島の荒磯を 今見れば 生ひずありし草 生ひにけるかも」

182番歌

訳文

「鳥小屋をこしらえて飼っていた島の宮の雁の子よ、巣立ったならば、この真弓の岡に飛び帰って来ておくれ」

書き出し文

「鳥座(とぐら)立て 飼ひし雁の子 巣立ちなば 真弓の岡に 飛び帰り来ね」

183番歌

訳文

「わが皇子の御殿は千代万代に栄えるであろう、と思っていたこの自分が悲しい」

書き出し文

「我が御門 千代とことばに 栄えむと 思ひてありし 我れし悲しも」

184番歌

訳文

「東のたぎの御門に伺候しているけれど、昨日も今日もお召しになるお言葉もない」

書き出し文

「東(ひむがし)の たぎの御門に 待(さもら)へど 昨日も今日も 召す言もなし」

185番歌

訳文

「水際に続く石組の岩つつじ、そのいっぱい咲いている道を、再び見ることがあろうか」

書き出し文

「水伝ふ 磯の浦みの 岩つつじ 茂く咲く道を またも見むかも」

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つつじは、集中十首詠まれています。

ツツジツツジ属の総称として使われています。

集中、つつじ花、丹つつじ、白つつじ、岩つつじと表現されています。

186番歌

訳文

「ご生前、一日に何度も何度も参入した東の大きな御門であるのに、今は入る気力もすかり失せてしまった」

書き出し文

「一日には 千たび参りし 東の 大き御門を 入りかてぬかも」

187番歌

訳文

「今ここからゆかりもない佐田の岡辺に帰ってお仕えしたなら、この島の宮の階段のもとには誰がとどまって伺候するのであろうか」

書き出し文

「つれもなき 佐田の岡辺に 帰り居ば 島の御階に 誰れか住まはむ

188番歌

訳文

「朝曇りして日が翳ってゆくので、皇子がよくお立ちになったお庭に下り立って、ただ溜息をつくばかりだ」

書き出し文

「朝ぐもり 日の入り行けば み立たしの 島に下り居て 嘆きつるかも」

189番歌

訳文

「朝日に照る島の御殿にはうっとうしくも人の物音一つしないので、しんそこ悲しい」

書き出し文

「朝日照る 島の御門に おほほしく 人音もせねば まうら悲しも」

190番歌

訳文

「真木柱のような物に動ぜぬ心はあったはずなのに、この悲しみを今はとても鎮めきれない」

書き出し文

「真木柱 太き心は ありしかど この我が心 鎮めかねつも」

191番歌

訳文

「狩の時節を待ちうけてはお出ましになった宇陀の荒野は、これからもしきりに思い出されることであろう」

書き出し文

「けころもを 時かたまけて 出でましし 宇陀の大野は 思ほえむかも」

192番

訳文

「朝日の照る佐田の岡辺で鳴く鳥のように、夜哭きに明け暮れたものだ。この一年間は」

書き出し文

「朝日照る 佐田の岡辺に 鳴く鳥の 夜哭きかへらふ この年ころを」

193番歌

訳文

「農民たちが夜昼となく野良通いする道を、われらはもっぱら宮仕えの道にしている」

書き出し文

「畑子らが 夜昼といはず 行く道を 我れはことごと 宮道にぞする」

以上二十四首は、一周忌を迎える間、島と真弓での供養の折り目(初七日など)に詠まれたものをほぼ忠実に採録したものと思われると。

引用した本です。

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では、この辺で。