169.巻二・143、144:長忌寸意吉麻呂、結び松を見て哀咽(かな)しぶる歌二首
143番歌
訳文
「岩代の崖(きし)の松の枝を結んだというそのお方は立ち帰って再びこの松を見られたことだろうか」
書き出し文
「岩代の 崖(きし)の松が枝 結びけむ 人は帰りて また見けむかも」
大宝元年(701)の歌か。歌は、有馬皇子がこの松を再び見なかった形で歌っている。
144番歌
訳文
「岩代の野中に立っている結び松よ、お前の結び目のように、私の心はふさぎ結ぼれて、昔のことがしきりに思われる」
書き出し文
「岩代の 野中に立てる 結び松 心も解けず いにしへ思ほゆ」
野中にに立てる:崖の上に続く野の側から結び松をとらえたもの。「野」は丘の上のなだらかな傾斜地。
結び松:松の結び目を有馬皇子のものと信じている。
心も解けず:心を緒のようなものと考えての表現。「解く」は「結ぶ」と縁をなす。
いにしへ:有馬皇子事件のあった昔。四十年ほど前になる。
下の本を引用しました。
有馬皇子の歌を記載した、ブログ番号の168.を読んでください。
では、この辺で。
なお、次回記載予定の145番歌は、山上憶良が143番歌と144番歌に後に唱和した歌です。