139.巻一・70~75:持統天皇、文武天皇の年月未詳の行幸時の歌
訳文
「大和には、今はもう来て鳴いているころであろうか。ここ吉野では、呼子鳥(よぶことり)が象(きさ)中山を、呼びかけるように鳴いて越えている」
書き出し文
「大和には 鳴きてか来(く)らむ 呼子鳥 象の中山 呼びぞ越ゆなる」
「呼ぶ」に寄せて望郷の心を述べた歌とのこと。
大和:ここでは藤原京を中心にした地域を指す。
呼子鳥:妻を呼ぶ鳥の意。晩春初夏に鳴く鳥だが未詳。
中山は二つの地域の中間にある山の意。これを越えれば大和であると見たもののようです。
71番歌:
大行天皇(さきのすめらみこと:天皇の崩御後の諡を奉るまでの称。万葉集の例はすべて文武天皇)、難波の宮に幸す時の歌
訳文
「大和に残してきた妻が恋しくて眠れないでいるのに、思いやりもなしにこの洲崎のまわりで鶴が鳴いたりしてよいものか」
書き出し文
「大和恋ひ 麻(い)の寝(ね)らえぬに、心なく この洲崎みに 鶴(たづ鳴くべしや)」右の一首は忍坂部乙麻呂(おさかべのおとまろ)。
洲崎み:水中に突き出た洲。みはまわり、あたりの意。
72番歌
訳文
「海女が玉藻を刈っている沖辺は漕ぐまい。ゆうべの宿の枕辺に呼んだおとめへの思いにたえかねていることだから」
書き出し文
「玉藻刈る 沖辺は漕がじ 敷栲(しきたへ)の 枕のあたり 念(おも)ひかねつも」
右の一首は式部卿藤原宇合(うまかひ)。
不比等の三男
73番歌
長皇子の御歌
訳文
「わが妻を早く見たいと思うが、そんな名を持つ早見浜風よ。大和で私を待っている松や椿を吹き忘れてくれるな。けっして」
書き出し文
「我妹子(わぎもこ)を 早見浜風 大和なる 我れ松椿 吹かずあるなゆめ」
旅先の地名「早見」に興味を覚えて詠んだ宴歌。
74番歌
大行天皇、吉野の宮に幸す時の歌
訳文
「吉野の山おろしの風がこんなに寒いのに、ああどうやら今夜も私は独り寝をすることになるのか」
書き出し文
「み吉野の 山あらしの 寒けくに はたや今夜(こよい)も 我がひとり寝む」
右の一首は、或いは「天皇の御製歌」といふ。
文武天皇の歌と言われるものはこの一首しかないという。
75番歌
訳文
「宇治間山の朝風が寒い。旅先にあって、私に衣を貸してくれる妻もいはしないのに」
書き出し文
「宇治間山 朝風寒し 旅にして 衣貸すべき 妹もあらなくに」
右の一首は長屋王。
長屋王:高市皇子の子、左大臣となり皇親政治を復活したが、藤原氏に謀られて叛逆の罪を負い、自尽。
今日も下の本で学びました。
長屋王の変は下の本で。
では、今日はこの辺で。