万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

133.巻一・54、55、56:大宝元年課の辛丑の秋の九月に、太上天皇、紀伊の国に幸す時の歌

54番歌

訳文

「巨勢山のつらつら椿の木をつらつら見ながら偲ぼうよ。椿の花咲く巨勢の春野のありさまを」

書き出し文

「巨勢山(こせやま)の つらつら椿 つらつらに 見つつ偲はな 巨勢の春の」

右(↑)の一首は坂門人足

55番歌

訳文

紀伊の国の人は羨ましいな。真土山(まつちやま)をいつもいつも眺められる紀伊の国の人は羨ましいな」

書き出し文

「あさもよし 紀伊人羨(とも)しも 真土山 行き来(く)と見らむ 紀伊人羨しも」

右の一首は調首淡海(つきのおびとあふみ)。

56番歌

或る本の歌

訳文

「川のほとりに咲くつらつら椿よ。つらつら見ても見飽きはしない。巨勢の春野は」

書き出し文

「川の上の つらつら椿 つらつらに 見れども飽かず 巨勢の春野は」

右の一首は春日蔵首老(かすがのくらびとおゆ)。

上野氏は54番歌を「奈良県の御所市に古瀬という古代の巨勢氏の根拠地がある。古い氏族は地名と氏名が一致しているので、その地域の支配者であると考えてよい。七世紀にもなれば役人として朝廷に仕え、都に居住しているが、その根拠地にも農園などを所有していた可能性が高い。大宝元(701)年、持統太上天皇は紀国行幸を行った。その折に従者のひとりの、坂門人足が歌った歌を掲げた。「つらつら」は物をじっと見たり、物事をじっくり考えたりすることをいう。最初の「つらつら」は「椿」の「つ」を起こし、次の「つらつら」を引き出す。まるで言葉遊びである。

結局、歌は「じっくりと楽しもうよ、この巨勢の春野を」ということであるから、単純といえば単純である。単純なことを複雑にいうところに、歌の面白さがある」と説明しているのを引用します。牧野貞之氏の巨勢寺跡の椿の花と巨勢山がきれいに調和した写真とともに説明。

椿には現在多くの品種があるようですが、万葉集の椿は「やぶつばき」が詠まれたようです。日本の暖かい地方では、冬から花が咲くようですが、普通は春の花です。で椿の字が使われたようです。片岡寧豊氏は「・・・椿はその名を「厚葉(あつば)の木」「艶葉(つやば)の木」に由来するとと言われています。葉は濃い緑色で、月日がたち、季節が移り変わろうとも一向に変わらない。種類は、真っ赤に咲く野生種の「藪椿」(山椿)、純白の一重に咲く「白玉椿」、それに茶人がこぞって愛でる「侘助椿」など多数ある。・・・古くから日本に自生している椿は花期が長いので、十二月から四月ころまでである。・・・」と、北海道には自生していないのですが、札幌市の百合が原公園の温室に咲いています。あそうです、歌は九月に詠まれたようなので、花の時期ではないので、その時に詠んだかは疑問が残るようです。

椿は昔からさまざまなところで使用されてきました。古くは、正倉院の宝物の一つに「椿杖(つばきのつえ)」で豪華な杖のようです。

鑑賞用の椿としては、奈良には古くから有名な名木が三本あるようです。それは三名椿と呼ばれ白毫寺の五色椿(七福椿)、東大寺開山堂の糊こぼし椿、伝香寺の散り椿で、いずれもお寺に関係しています。観たことがあるのは白毫寺の五色椿だけです。

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椿は鑑賞用以外に、お椀、椿油、椿炭、椿灰などがあるようです。椿灰は奈良の名産「奈良漆器」の研ぎ出しにはなくてはならないもののようです。

あ、忘れるところでした。椿は集中九首詠まれています。歌番は、54、56、73、1262、3222、4152、4177、4418、4481です。

下に貼り付けた椿は藪椿ではないのですが、百合が原公園の温室で開催の椿展を2015年3月6日に撮ったものです。

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2016年3月3日に百合が原公園の温室で撮影

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記載に参考にした本です。

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奈良の白毫寺や新薬師寺などの椿を思い出しながら記載していました。では、この辺で終わります。椿の歌はあと七首ですね。そうでした、このブログの98.に「万葉植物と呪性」で、54番歌と椿そして馬酔木について記載しています。訪ねてみてください。