万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

106.巻第一・5,6:軍王(こにしきのおほきみ)・反歌

讃岐の国の阿益(あや)の郡(こほり)に幸(いでま)す時に、軍王が山を見て作る歌

<雑歌> 

「霞立つ 長き春日の 暮れにける わづきも知らず むらきもの 心を痛み ぬえこ鳥 うら泣き居(を)れば 玉たすき 懸(か)けのよろしく 遠つ神 我が大君の 行幸(いでまし)の 山越す風の ひとり居る 我が衣手に 朝夕(あさよい)に かへらひぬれば ますらをと 思へる我れも 草枕 旅にしあれば 網の蒲の 海人娘子(あまをとめ)らが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 我が下心」

反歌

「山越しの 風を時じみ 寝(ぬ)る夜おちず 家にある妹(いも)を 懸けて偲(しの)ひつ」

この後に歌の説明文のような文章(左注:歌の後、左側に置かれ、その歌についての補足的な説明を加える、漢文の叙述です)が続きますが、省略します。

<歌意>

(霞の立つ長い春の日が暮れたのも知らぬほど胸がいたむので、ぬえこ鳥の鳴くようにしのび泣きをしていると、わが大君がお出ましになっている地の山向こうの故郷の方から越して来る風が、帰るということが連想されて嬉しいことに、一人でいる私の衣の袖に朝夕吹き返って行くものだから、ますらおだと思っている私も旅に出ているので思いを晴らすすべも知らず、網の蒲の海人の娘たちが焼く塩のように焼け焦れている。わが胸のうちは)

反歌

(山越しの風がたえず袖をひるがえすので帰ることが思われて、夜ごと夜ごと、私は家にいる妻を心に懸けて偲んでいる)

舒明朝のものとしては歌風が新しいとのこと。漢詩文の教養に恵まれた渡来人の作であるためかと。軍王は、百済系王族の渡来人かと。「・・・を見て作る歌」の形は、旅の歌の題詞として一般的なものとのこと。山を見て望郷の思いを述べる歌、の意とか。わずき:区別の意。むらきも:心の枕詞。ぬえこ鳥:とらつぐみ。悲しそうに鳴く。ここは「うら泣き」の枕詞。玉たすきは「懸く」の枕詞。遠つ神:「我が大君」の枕詞。ますらを:立派な男子。「たわやめ」の対。網の蒲は香川県坂出市。焼く塩:当時は海藻を焼いて塩を作ったようです。

反歌の「時じ」:時が定まっていない、の意から、ここはいつもそうである、の意。寝るよ落ちず:毎晩の意。妹:普通、男性から親しい女性を呼ぶ言葉。

この歌(5,6首)は、記載するまで知らなかった歌です。軍王も塩の蒲も。103に「最初から読んでみたい」と記載して、読んだ歌です。で、記載はここで終えたいと思います。あらたな知見を得て、加筆するかもしれません。参考にし、引用した本は下の本です。

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