93.万葉集に詠まれている花(27)再びにこぐさ:似古草・和草・似児草・尓古草など:甘野老
今朝の雨の後、晴れとなりました。
裏山の大甘野老(おおあまどころ)の実が、黒紫色に熟し、
中には葉が黄色になりかけているもののありました。
早速、実などを撮りました。
大甘野老:小樽の裏山で2014年9月7日撮影
雫は、雨のためで、朝の寒さのためではないようです。
勝手に北海道に咲く万葉集の花としているのですが、
万葉植物名は「にこぐさ」です。
現代植物名のハコネソウ(イノモトソウ科)とする説もあるようです。
万葉集の面白さ(二)、(五)、そして、万葉集に詠まれている花(10)にも記載していますので、訪ねてみてください。
集中四首詠まれているようです。
巻11・2762、巻14・3370、巻16・3870の三首で、いずれも作者不明。
そして、大伴家持の巻20・4309の計四首です。
巻11・2762
「葦垣の 中のにこ草 にこやかに 我と笑まして 人に知られゆな」
(葦垣の中に混じるにこ草ではないけれど、にこにこと私に笑顔を見せてくださいますが、人に知られなさいますな)
訳は、片岡寧豊氏文・中村明巳氏写真の「やまと花万葉集」によります。
垣根の材料として、葦とともに刈り取られ、混ぜ込まれている草のことらしい。
巻14・3379
「足柄の 箱根の嶺ろの にこ草の 花つ妻なれや 紐解かず寝む」
(足柄の箱根の山のにこ草ではないが、あなたがそんな花つ妻ででもあるなら、紐を解かずに寝ましょう)
訳は、片岡寧豊(2010)万葉集の花 青幻舎によります。
歌にある「花つ妻」とは、美しい花のようにただ眺めるだけの妻のことだそうです。
巻16・3874
「射ゆ鹿をつなぐ川辺の和草の身の若かへにさ寝し児らはも」
(射られた鹿の跡をたずねて到川べのやわらかい草のように、うら若い身で共に寝たあの子よ)
訳は、中西 進(2008)万葉集全訳注原文付(四) 講談社文庫によります。
巻20・4309
「秋風になびく川びのにこ草の にこよかにしも思ほゆるかも」
訳は、吉野江美子文・中村明巳氏写真(2006)万葉 花しおり 柳原出版によります。
まえにも記載したのですが、「にこぐさ」は、「にこやか」を導くために使われています。
にこぐさは、小草の生えそめてやわらかなものをいうのか、特定の草名なのかは未詳とか。
古名に「はこねしだ」「あまどころ」があるようです。
にこ草には諸説があるようですが、「和名妙」に「葳蕤(いずい)和名恵美久佐=安麻奈(あまな)」とあり、「葳蕤」は草本が垂れさがりながらやわらぐ姿を形容しているという。
また、「本草図譜」では「葳蕤、えみぐさ」と記され、甘野老の図が描かれていて、もう一つには、「箱根草」があげられ、図譜には「石長生、はこねそう」と記されているという。
巻14・3379の歌は、箱根草のほうがふさわしいのかな。
箱根草見たことないのですが、箱根羊歯とも呼ばれる常緑多年草のシダ植物とか。
花は、咲かないような気がするのです。
2013年5月29日に小樽の裏山で撮影
で、ここでは、四首ともアマドコロが詠まれていることにしよう。