万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

86.万葉集に詠まれている花(21)譲り葉・ユズリハ(由豆流波・弓絃葉・ゆづるは)

集中ゆづるは(ユズリハ)の歌は二首。巻2・111と巻14・3572です。数少ない蔵書で、四冊の二冊がトウダイグサ科、もう二冊がユズリハ科となっています。で、参考にした佐藤孝夫著の新版北海道樹木図鑑ではトウダイグサ科となっていたので、こちらの科を採りたいと思います。道内にはユズリハは自生していないようで、同じ科のエゾユズリハが分布しています。この種は本州中部以北にも分布しているようです。

漢字名は蝦夷譲葉・蝦夷交譲木です。片仮名表記は、学名、平仮名表記は和名などを示しています。

エゾユズリハが北海道に咲く万葉植物「ゆずるは」と勝手に思っています。

エゾユズリハは、雌雄異株の常緑樹で長さ4~8cmの総状花序に花をつけますが、花弁もがくもなく、5~6月に開花するようです。用途としては庭園樹、花材です。

ユズリハは、初夏5~6月に黄緑色の小さな花が房状に咲くが、葉に隠れていて気づかないことが多いという。秋、小粒の実が黒味みがかった藍色に熟すという。エゾユズリハも花や実の色は同じだろうか。

ユズリハは、本州中南部以西の、各地の山林に生える雌雄異株の常緑高木で、樹高は10mほどになるという。エゾユズリハは、樹高1.5mほどで裏山でも落葉松などの樹林の下などに見られます。

ユズリハは、春に新葉が出そろうと古い葉がいっせいに落葉する特徴を持っていて、黄緑色とも赤い色とも本によって記載が違うのですが、小さな目立たない花を咲かせるようです。

ユズリハは、春、新葉に苞につつまれて枝先につくようです。その様子は花の蕾のように見えるという。新しい葉は若草色で枝先に集まり、紅色の長い葉柄がくっきり見えだすと、濃い緑色の古葉との差が目立つようです。そして、若い葉が育ち、一人前になるのを十分見とどけてから、古葉が「譲る」ように散るので、ゆづるはという名があるのだそうです。

エゾユズリハも同じなのであろうか。

このことは、江戸時代に刊行された「大和本草」に、「春新芽がすっかりすっかり整ってのち、これを見届けるかのように、親である旧葉が落ちるゆえに、ユズリ葉と名づく、またわが国では歳首の賀具とする」と記してあるようです。

それでは、弓削皇子の詠まれた巻2・111を記載します。

「古(いにしへ)に 恋ふる鳥かも 弓絃葉(ゆずるは)の 御井(みい)の上より 鳴き渡り行く」

歌意(昔のことを恋い慕う鳥なのだろうか、ユズリハの樹のある御井の上を通って、鳴きながら飛んで行く)

弓削皇子額田王に贈った歌だそうです。恋慕う昔は、額田王が寵愛をうけていた父の天武天皇のご在世の時です。

また、鳥はホトトギス(巻2・112)だそうです。

「古に恋ふらむ鳥は 雀公鳥(ほととぎす)けだしや 鳴きしわが念(おも)へる如」

歌意(あなたが「昔を恋う」という鳥は雀公鳥でしょう。恐らくは鳴いたでありましょう、私が昔を恋しく思うように)

そして、巻14・3572の比喩歌です。

「あど思(も)へか 阿自久麻山(あじくまやま)の ゆづるはの 含(ふふ)まる時に 風吹かずかも」

歌意(阿自久麻山のゆずりはのように、これから美しくなる新葉だけれども、いつ風が吹くとも限らない。なんとも心配なことだ)

歌は、「相手の娘が若すぎるからといってためらっていると、誰かが不意に言い寄るかもしれないぞ」といった意味の比喩歌とのこと。

そんなに美しい花ではないのですが、集中二首詠まれているのは、「ゆずりは」が昔から縁起物として使われ、その生活史にあったと思います。万葉人は、「ゆずりは」の生態などの知識を持っていて、歌を詠んだものと確信します。

1)小樽の裏山で2014年5月22日撮影:エゾユズリハ

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2)エゾユズリハの新葉と花(撮影場所日時1)と同じ)

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3)蝦夷譲葉のそばで咲く難波津

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4)引用した本

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5)

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6)

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7)

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8)

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9)

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