万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

66.色と万葉集(1)紅:万葉びとの「想い色」

もう一つのブログ「風景夢譚」に4.二十四節気・七十二候「歳時記カレンダー」を記載しました。

その中で中江氏の本を引用したのですが、春の章に(紅 万葉びとの「想い色」)が記載してあることを思い出したのです。

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「紫は秋の色かな」とか「季節の色はあるのだろうか」とか「人生の色は」とか漠然と考えていました。

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その時の自分の結論は、「たぶんその時その時の心の中の色が、季節や人生などの色なのでしょう」としていたのです。

万葉びとの色の中の「紅」の覚書です。

で、中江氏の本の「紅」を再読し、要点を下記のようにとりまとめました。

  1. 大宝衣服令の「紅」は「ひ」と読ませていて、古代では黄みをおびた赤色を指していた。
  2. 原料の紅花には赤と黄の色素が含まれるが、赤色素だけをうまく分離抽出できず、黄色系素が染めついたため
  3. 紅花は四~五世紀ころ、中国を経て我が国に伝えられた。
  4. それまでの茜と主役交替し、奈良時代から平安時代にかけて紅色が流行
  5. 当初、紅花は「呉(くれ)の藍」と称された。
  6. 当時、中国をわが国では「呉」と呼んでいた。
  7. 「藍」は染料の総称
  8. 中国から渡来した染料という意味で、「くれのあい」が縮まって「くれあい」となり、やがて「紅」の字があてられるようになった。
  9. 紅色の流行は「万葉集」の歌にもうかがえる。
  10. 巻11・2624、巻12・2966、巻18・4109の三首を紹介
  11. 前二首から万葉人は、紅花染で衣服を美しく彩っていた。
  12. また、紅は、恋心や愛情を表現する色でもあったので、紅の色を「想い色」と呼んだ。
  13. 巻18・4109の歌から紅の色は「うつろふもの」、つまり褪めやすい色で、人の心ほど移ろいやすく、冷めやすいものもない。
  14. 氏は、紅の色と人の心とを重ね、内に秘めた恋心を紅花で染めた衣になぞらえて伝えるという「ゆかしさ」が当時の人にあったと考え、
  15. この「ゆかしさ」が繊細な濃淡を生み出す紅花染を愛でたのであろう。

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左の頁の右端の上から四番目が紅です。

万葉集に詠まれている紅の歌を山口大学の吉村誠先生の「万葉集検索」を利用すると、以下の三十三首があることがわかりました。

巻4・683、5・804、5・861.6・1044、7・1218、7・1297、7・1313、7・1343、8・1594、9・1672、9・1742、10・2177、11・2550、11・2623、11・2624、11・2655、11・2763、11・2827、11・2828、12・2966、13・3227、15・3703、16・3877、17・3969、17・3973.17・4021、18・4109、18・4111、19・4139、19・4156、19・4157、19・4160、19・4192

683の歌は、大伴坂上郎女歌七首の最初の歌です。

「言ふ言の畏き国ぞ紅の色にな出でそ思ひ死ぬとも」

(他人の噂のこわい国がらです。だから思う気持ちを顔色に出してはいけません、あなた。たとえ思い死をするほど苦しくっても。)

恋歌に自らの死を口にする例は万葉後期には多いが、相手には用いないのが普通とか。ここでは戯れてそれを用いたのではないかとのこと。

巻11・2624

「紅の深染めの衣 色深く染みにしかばか 忘れかねつる」

(紅花で念入りに染めあげた着物の色の深さのように、あの人が心に深くしみついてしまったせいか、忘れようにも忘れられない。)

巻12・2966

「紅の薄染め衣 浅らかに 相見し人に 恋ふるころかも」

(紅の薄染めの着物の色のように、ほんの淡い気持ちで逢った人なのに、その人に恋い焦がれている今日このごろだ。)

紅は万葉びとの「想い色」ですね。

巻18・4109

「紅は うつろふものぞ 橡(つるはみ)の なれにし衣に なほしかめやも」

(見た目が鮮やかでも紅は色あせやすいものだ。地味な橡染めの着古した着物に、やっぱりかなうはずがあるものか)

現代の恋心はどんな色の衣服に例えるのだろうか。

また、万葉集の色に関しては以下の本が参考になります。

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本の中の伊原 昭氏の色と「万葉集」のかかわりが参考になります。

この中の二「万葉集」の色

2.色の性質

①日本的な具体的な色

・・・・万葉集には三十余種にも及ぶ色彩をあらわす用語がみられる。

これは、詩歌の世界では、記紀歌謡は言う間でもないが、平安の「古今集」から諸勅撰集八代集及び十三代集の歌数、三万三千七百十余首)と比較しても格段にその種類数が多い。

それは、他集にあまりみられない、染色、彩色に類する色が過半数を占めていることに起因する。

 この本の構成は以下の様になっています。

  1. 色の万葉集序説:大久間喜一郎
  2. 赤色の裙の乙女:志水義久
  3. 青き蓋:田中夏陽子
  4. 万葉びとの洗濯:上野 誠
  5. 「ぬばたま」と「みなのわた」:関 隆司
  6. 万葉集の動詞「てる」・「ひかる」:阿蘇瑞枝
  7. 色と「万葉集」のかかわり」:伊原 昭
  8. 白と青のメッセージ:山口 博
  9. 「ひほひ」を嗅いだ家持:新谷秀夫
  10. 正倉院の染め色:尾形充彦
  11. 古代美術の色:百橋明穂
  12. 長屋王家の色彩誌:川﨑 晃

色と万葉集のかかわりは一冊の本になりますね。

この本のことをすっかり忘れていて、何が書かれていたのかなども。

ブログを記載するに当たりあわてて拾い読みする、初めて読む本のようでした。

この本も参考にしながら、万葉人の豊かな色彩観を理解し、日本の伝統色とその歴史を楽しく学んでいきたいと思っています。

(A君:色と万葉集(2)はあるのだろうか)

 (B君:だいたい1、2、4、5、7くらいは読んだ記憶があるらしいよ。歳だね。)

(C君:本人、大学受験以来の真剣さで書き留めたらしいが、ま、この本にどんなことが書いてあるかくらいの見出しは覚えたのでないかい。) 

(A君:見出しだけでは不合格でしょう。) 

(C君:元気が何よりが、モットーだからこれでいいんでないかい。)

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