万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

406.巻四・697~699:大伴宿禰像見(かたみ)が歌三首

697番歌 訳文 「私に聞えよがしに言って下さいますな。耳に入るその名は、私がちぢに乱れて思いつづけている、まさにその人なのですよ」 書き下し文 「我が聞に 懸けてな言ひそ 刈り薦(こも)の 乱れて思ふ 君が直香(ただか)ぞ」 女の立場に立つ歌。名を…

405.巻四・696:石川朝臣広成が歌一首

696番歌 訳文 「奈良の家で待つ人への思いが薄らぐなんてことがあるものか。河鹿の鳴くこの泉の里に来て、年もたってしまったのだもの」 書き下し文 「家人に 恋過ぎめやも かはづ鳴く 泉の里に 年の経ぬれば」 家人:特に妻を意識している。 泉の里:久邇京…

404.巻四・694・695:広河女王が歌二首 穂積皇子の孫女、上道王が女(むすめ)なり

694番歌 訳文 「刈っても刈っても生い茂る恋草を、荷車七台に積むほど恋の思いに苦しむのを、私自身の心から出たことなのです」 書き下し文 「恋草(こひくさ)を 力車に 七車 積みて恋ふらく 我が心から」 恋を草に譬え、車を持ち出して恋の重荷にたえかね…

403.巻四・693:大伴宿禰千室が歌一首 いまだ詳らかにあらず

いまだ詳らかにあらず:古歌か新作か未詳、の意。 693番歌 訳文 「こんなに恋いつづけてばかりいるのだろうか。秋津野にたなびく雲がいつしか消えるように、恋の苦しさが消えるということもなくて」 書き下し文 「かくのみし 恋ひやわたらむ 秋津野に たなび…

402.巻四・691・692:大伴宿禰家持、娘子に贈る歌二首

娘子:離絶中であるため(727番歌題詞参照)はばかって名を伏せたもので、実は大嬢を心の底において娘子と言ったと見ることも可能か。 691番歌 訳文 「大宮仕えの女官はたくさんいるが、私の心をとらえて離さないのは、そんな人よりもあなたなんだよ」 書き…

401.巻四・690:大伴宿禰三依、別れを悲しぶる歌一首

別れを悲しぶる:離れ離れでいることを悲しむ意。 690番歌 訳文 「別れの辛さに、月は明るく照っていても闇に包まれたような気持で泣く涙が着物を濡らした。乾かしてくれるやさしい人もそばにいないままに」 書き下し文 「照る月を 闇に見なして 泣く涙 衣濡…

400.巻四・683~689:大伴宿禰坂上郎女が歌七首

683番歌 訳文 「他人の噂のこわい国がらです。だから思う気持を顔色に出してはいけません、あなた。たとえ思い死をするほど苦しくっても」 書き下し文 「言ふ言の 畏き国ぞ 紅の 色にな出でそ 思ひ死ぬとも」 恋歌に自らの死を口にする例は万葉後期に多いが…

399.巻四・680~682:大伴宿禰家持、交遊と別るる歌三首

交遊:男性の友人の意。 680番歌 訳文 「ひょっとしたら他人の中傷を耳にされたからではあるまいか。こんなに待ってもあの方は、一向にいらっしゃらない」 書き下し文 「けだしくも 人の中言 聞かせかも ここだく待てど 君が来まさぬ」以下三首、いずれも女…

398.巻四・675~679:中臣郎女、大伴宿禰家持に贈る歌五首

675番歌 訳文 「佐紀沢に生い茂る花かつみではないが、かつて味わったこともないせつない恋をしています」 書き下し文 「をみなえし 佐紀沢に生ふる 花かつみ かつても知らぬ 恋もするかも」 秋の七草のひとつの「オミナエシ」、万葉名「をみなえし」、オミ…

397.巻四・672・673・674:安倍朝臣虫麻呂が歌一首と大伴坂上郎女が歌二首

672番歌 訳文 「しつたまきのように物の数でもない私だが、こんなつたない身で、どうしてこうもせつなくあなたを恋いつづけるのであろうか」 書き下し文 「しつたまき 数にもあらぬ 命もて 何かここだく 我が恋ひわたる」 坂上郎女に贈った歌。親しい男女の…

396.巻四・670・671:湯原王が歌一首と和ふる歌一首作者を審(つばひ)らかにせず

670番歌 訳文 「お月様の光をたよりにおいでになってくださいませ。山が間に立ちはだかった遠い道のりではないのでしょうに」 書き下し文 「月読(つきよみ)の 光に来(き)ませ あしひきの 山を隔(へだ)てて 遠(とほ)からなくに」 男を待つ女の立場を…

395.巻四・668・669:厚見王が歌一首と春日王が歌一首

668番歌 訳文 「朝ごと日ごとに色づいてゆく山、その山にかかる白雲がいつしか消えるように、私の心から消え去ってゆくようなあなたではないはずなのに」 書き下し文 「朝に日(け)に 色づく山の 白雲の 思ひ過ぐべき 君にあらなくに」 この歌の鮮明な色彩…

394.巻四・664・665・666・667:大伴宿禰像見(かたみ)が歌一首、安倍朝臣虫麻呂が歌一首と大伴坂上郎女が歌二首

664番歌 訳文 「いくら降っても雨に降りこめられてなどいられるものか。あの子に逢いに行くよと言ったのだもの」 書き下し文 「石上(いそのかみ) 降るとも雨に つつまめや 妹に逢はむと 言ひてしものを」 665番歌 訳文 「面と向かっていくら見ても飽きるこ…

393.巻四・662・663:市原王が歌一首と安都(あとの)宿禰年足(としたり)が歌一首

662番歌 訳文 「かわいいあの子のいる網児(あご)の山をいくえにも重なった向こうに隠している佐堤(さで)の崎よ。その名を聞くと、網児でさで網を広げていたあの海人おとめの姿が夢にまで見えてくる」 書き下し文 「網児の山 五百重(いほへ)隠せる 佐堤…

392.巻四・656~661:大伴坂上郎女が歌六首

656番歌 訳文 「私の方だけですよ、あなたに恋い焦がれているのは。あなたのおっしゃる恋い焦がれるという言葉は、口さきだけの慰めとわかっています」 書き下し文 「我れのみぞ 君には恋ふる 我が背子が 恋ふといふことは 言のなぐさぞ」 654番歌の「恋ふ」…

391.巻四・653・654・655:大伴宿禰駿河麻呂が歌三首

653番歌 訳文 「心では忘れることでないのに、思いのほかにお逢いしないままでずるずると一月もたってしまいました」 書き下し文 「心には 忘れぬものを たまさかに 見ぬ日さまねく 月ぞ経にける」 一月も訪れなかったという大げさな形で無沙汰をわびる挨拶…

390.巻四・651・652:大伴坂上郎女が歌二首

651番歌 訳文 「夜も更けて空から露がしっとりと降りました。家の人もきっと今ごろは待ち焦がれていることでしょう」 書き下し文 「ひさかたの 天の露霜 置きにけり 家なる人も 待ち恋ひぬらむ」 家で待つ娘を思う母心を歌うと見せて、同じ場所に居あわせた…

389.巻四・650:大伴宿禰三成、離(か)れてまた逢ふことを歓ぶる歌一首

650番歌 訳文 「あなたは今でも常世の国に住んでおられたのですね。昔お目にかかった時よりもずっと若返られました」 書き出し文 「我妹子は 常世の国に 住みけらし 昔見しより をちましにけり」 大宰府から帰京した後、旧知の女性に贈った歌。相手は賀茂女…

388.巻四・646~649:四首は、大伴宿禰駿河麻呂が身内の坂上郎女と恋人同士を装った贈答。

大伴宿禰駿河麻呂が歌一首 646番歌 訳文 「ひとかどの男が思い焦がれ、意気消沈して何度もつく深いため息を、あなたは自分のせいだとも思わないのですかね」 書き出し文 「ますらをの 思ひわびつつ たび数多(まね)く 嘆くなげきを 負はぬものかも」 大伴坂…

387.巻四・643~645:紀女郎が怨恨歌三首 鹿人大夫が女(むすめ)、名を小鹿といふ。安貴王が妻なり

紀女郎:家持が最も心を許して恋の遊びをした相手で、家持より年上らしい。 643番歌 訳文 「私がもし世の常の女であったなら、渡るにつけて「あああなた」と私が胸を痛めるこの痛背(あなせ)川を、渡りかねてためらうことはけっしてありますまい」 書き出し…

386.巻四・631~642の十二首

湯原王、娘子に贈る歌二首 志貴皇子の子なり 631番歌 訳文 「無愛想なんだな、あなたという人は、あれほど遠い家路を空しく帰らせても平気なのだと思うと」 書き出し文 「うはへなき ものかも人は しかばかり 遠き家道を 帰さく思へば」 以下十二首、湯原王…

385.巻四・629・630:大伴四綱(おおとものよつな)が宴席歌一首と佐伯宿禰赤麻呂が一首

629番歌 訳文 「どんなつもりで使いなんかよこすの。何をおいてもあなたをこそ、今や遅しと待ちかねているのです」 書き出し文 「何すとか 使の来つる 君をこそ かにもかくにも 待ちかてにすれ」 前歌(628番歌)の「かにもかくにも」の意味を転機させながら…

384.巻四・627・628:娘子、佐伯宿禰赤麻呂に報へ贈る一首と佐伯宿禰赤麻呂が和ふる歌一首

娘子:架空の遊行女婦か。404~406番歌参照。 627番歌 訳文 「私の腕(かいな)を枕に寝たいなどと思う大夫は、若返りの水でも探していらっしゃい。頭に白髪がまじっていますよ」 書き出し文 「我がたもと まかむと思はむ ますらをは をち水求め 白髪(しら…

383.巻四・626:八代女王、天皇に献(たてまつ)る歌一首

626番歌 訳文 「君ゆえにひどく噂を立てられていますので、その穢れを洗い流そうと、旧都の飛鳥川へみそぎをしに参ります」 書き出し文 「君により 言の繁きを 故郷の 明日香の川に みそぎしに行く」 みそぎ:420番歌参照。明日香京の飛鳥川や難波宮の御津浜…

382.巻四・625:高安王、裏(つつ)める鮒を娘子(をとめ)に贈る歌一首

裏める:鮮度を保つために藻にくるんだか。 625番歌 訳文 「沖を漕ぎ岸べを漕ぎして、たった今あなたのために私がとってきたばかりのものですよ。この藻の中に臥しているちっぽけな鮒は」 書き出し文 「沖辺行き 辺を行き今や 妹がため 我が漁(すなど)れる…

381.巻四・624:天皇、酒人女王(さかひとのおほきみ)を思ほす御製歌一首 女王は、穂積皇子の孫女なり

天皇:四十五代聖武天皇 酒人女王:表題の脚注以外の伝未詳 624番歌 訳文 「「道でお逢いした時ほほえまれただけなのに、降る雪の消えるように今にも消え入りそうなのほどお慕いしています」と私に言ってくれるそなたよ」 書き出し文 「道に逢ひて 笑ますが…

380.巻四・623:池辺王(いけへのおほきみ)が宴誦歌(えんしょうた)一首

池辺王:大友皇子の孫、淡海三船の父。 宴誦歌:宴席朗詠用の歌の意。お座敷歌の類。自作に限らず古歌を取り上げることもあった。 623番歌 訳文 「松の葉越しに月は渡っていくし、おいでを待つうち月も替わってしまった。まさかあの世行ったわけでもあるまい…

379.巻四・621・622:西海道節度使判官(さいかいどうせつどしのじょう)、佐伯宿禰東人が妻、夫の君に贈る歌一首と佐伯宿禰東人が和ふる歌一首

西海道節度使判官:全国を畿内と七道に分けた行政区域の一つで、壹岐・対馬を含む九州全土の地方監察官の三等官。 佐伯宿禰東人:経歴以外未詳。 621番歌 訳文 「やむ時もなく、あなたを恋いつづけているためでありましょうか。旅に出ているあなたの姿が夢に…

378:巻四・619・620:大伴坂上郎女が怨恨歌(ゑんこんか)一首あわせて短歌

怨恨歌:恋における女の「怨恨」を主題にした歌で、中国の怨詩などに学んだものか。作者が関係した男性、藤原麻呂や大伴宿奈麻呂などへの怨みの歌と見る説もある。 619番歌 訳文 「長い難波菅の根ではないが、ねんごろにあなたが言葉をかけて下さって、何年…

377.巻四・618:大神郎女、大伴宿禰家持に贈る歌一首

大神郎女:伝不詳、1505番歌にも家持への贈歌がある。 618番歌 訳文 「真夜中につれを求めて呼ぶ千鳥よ。恋の思いに沈んで1私がしょげかえっている時に、むやみやたらと鳴いたりして・・・・・」 書き出し文 「さ夜中に 友呼ぶ千鳥 物思ふと わびをる時に 鳴…