万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

307.巻三・427:田口広麻呂(たのくちのひろまろ)が死にし時に、刑部垂麻呂(おさかべのたりまろ)が作る歌一首

田口広麻呂(たのくちのひろまろ):景雲二年(705)従五位になった田口朝臣広麻呂か。六位以下の場合の「死」を用い、「卒」と記さないのは刑死を意味するか。 刑部垂麻呂(おさかべのたりまろ):伝未詳。263番にも歌がある。 427番歌 訳文 「くねくねとし…

306.巻三・426:柿本朝臣人麻呂、香具山の屍を見て、悲慟(かな)しびて作る歌一首

426番歌 訳文 「草を枕のこの旅先で、いったい誰の夫なのだろうか、故郷へ帰るのも忘れ臥せっているのは。妻はさぞ帰りを待っていることであろうに」 書き出し文 「草枕 旅の宿りに 誰が夫か 国忘れたる 家待たまくに」 香具山は神聖視されていたので、特に…

305.巻三・423・424・425:同じく石田王が卒りし時に、山前王が哀傷しびて作る歌一首

山前王:忍壁皇子の子。 423番歌 訳文 「磐余の道を毎朝帰っていかれたお方は、道すがらさぞや思ったことであろう、時鳥の鳴く五月には、共にあやめ草や花橘を玉のように糸に通し、髪飾りにもしようと、九月の時雨の頃には共に黄葉を手折って髪に挿そうと、…

304.巻三・420・421・422:石田王(いはたのおほきみ)が卒りし時に、丹生王(にふのおおきみ)が作る歌一首あわせて短歌

石田王:伝不詳 丹生王:石田王の妻の一人であろう。丹生女王と同一人か。 420番歌 訳文 「なよ竹のようにたおやかな御子、紅顔のわが君は、泊瀬の山に神として祭られていらっしゃると、使いの者が言ってきた。 まさかそんなことはあるまいに、人惑わしの空…

303.巻三・417・418・419:河内王を豊前の国の鏡山に葬る時に、手持女王が作る歌三首

417番歌 訳文 「わが君の御心にかなったというのであろうか、そんなはずもなかろうに、こんな豊前の鏡の山を常宮とお定めになるとは」 書き出し文 「大君の 和魂(にきたま)あへや 豊国の 鏡の山を 宮と定むる」王の身でなぜ都はるかかな地に葬られたのかと…

302.巻三・416:大津皇子、死を被(たまは)りし時に、磐余の池の堤にして涙を流して作らす歌一首

大津皇子:謀反のかどで持統朝の朱鳥元年(686)十月三日に処刑された。年二十四歳。 磐余の池:池は皇子の訳語田(おさだ)の邸近くにあったか。 大津皇子の変:誇り高き皇子の恋と悲劇的な結末、巻二・107~110番歌と姉の大伯皇女の歌↓(105番歌と106番歌…

301.巻三・415:上宮聖徳皇子(かみつみやしやうとこのみこ)、竹原井(たけはらのゐ)に出遊(い)でましし時に、竜田山の死人を見悲傷して作らす歌一首

挽歌 415番歌 訳文 「家にいたなら、妻の手を枕にするだろうに、(草枕)旅先で臥せっているこの旅人は、ああ哀れなことよ」 書き出し文 「家ならば 妹が手まかむ 草枕 旅に臥(こ)やせる この旅人あはれ」 題詞に見える竹原井は、柏原氏高井田の地(青谷遺…

300.巻三・414:大伴宿禰家持が歌一首

巻三の最後の譬喩歌です。 譬喩歌は巻三では390番歌から414番歌です。 414番歌 訳文 「山の岩がごつごつしているので山菅の長い根を引き抜くことは難しいと思って、目印の標縄を張っておくばかりです」 書き出し文 「あしひきの 岩根こごしみ 菅の根を 引か…

299.巻三・413:大網公人主(おほあみのきみひとぬし)が宴吟(えんぎん)の歌一首

大網公人主:伝未詳 宴吟の歌:宴会の席で口ずさんだ歌 413番歌 訳文 「須磨の海女が塩を焼く時に着る藤の衣は、ごわごわしているので、時々身につけるだけだから、まだ一向にしっくりとなじんでくれない」 書き出し文 「須磨の海女の 塩焼き衣の 藤衣 間遠…

298.巻三・412:市原王が歌一首

市原王:安貴王の子。 412番歌 訳文 「頭上に束ねた髪の中に秘蔵している玉は二つとない大切な物です。どうぞこれをいかようにもあなたのご随意になさって下さい」 書き出し文 「いなだきに きすめる玉は 二つなし かにもかくにも 君がまにまに」 愛娘を男に…

297.巻三・410・411:大伴坂上郎女が橘の歌一首と和ふる歌一首

410番歌 訳文 「大事な橘をわが家の庭に植えて育てて、その間中立ったり座ったり気をもんだあげく、人に取られてのちに悔やんでも、なんのかいがありましょうか」 書き出し文 「橘を やどに植ゑ生(お)ほし 立ちて居て 後に悔ゆとも 験(しるし)あらめやも…

296.巻三・409:大伴宿禰駿河が歌一首

409番歌 訳文 「一日のうちに千度も、千重の波の重なるように思っているのに、どうしてその玉を手に巻きがたいのだろう」 「一日のうちにも幾重にも打ち寄せる波のように繰り返し繰り返し手に入れたいと思っているのに、なぜあの玉を手に巻くことができない…

295.巻三・408:大伴宿禰家持、同じき坂上家の大嬢に贈る歌一首

408番歌 訳文 「あなたがなでしこの、その花であったらなあ。毎朝毎朝、手に取りもって愛でいつくしまない日はないだろうに」 書き出し文 「なでしこが その花にもが 朝(あさ)な朝(さ)な 手に取り持ちて 恋ひぬ日なけむ」 なでしこに寄せて熱愛する気持…

294.巻三・407:大伴宿禰駿河、同じき坂上家の二嬢(おといらつめ)を娉(つまど)ふ歌

二嬢(おといらつめ):大伴宿禰宿奈麻呂と坂上郎女との次女。 407番歌 訳文 「(春霞)春日の里植え小水葱(こなぎ)は、まだ苗だと聞きましたが、もう葉柄は伸びたことでしょう」 書き出し文 「春霞春日の里の植ゑ小水葱 苗なりと言ひし柄はさしにけむ」 …

293.巻三・404・405・406:娘子、佐伯宿禰赤麻呂が贈る歌に報ふる一首、佐伯宿禰赤麻呂がさらに贈る歌一首、娘子がまた報ふる歌一首

佐伯宿禰赤麻呂:伝未詳 404番歌 訳文 「あのこわい神の社さえなかったなら、春日の野辺で、粟を蒔きたいところなのですが、あいにくね」 書き出し文 「ちはやぶる 神の社し なかりせば 春日の野辺に 粟蒔かましを」 妻のある中年男性の誘いにからかい半分に…

292.巻三・403:大伴宿禰家持、同じき坂上家の大嬢に贈る歌一首

同じき:大伴の意 坂上家の大嬢:大伴家持の妻。宿奈麻呂と坂上郎女との長女で、家持の従妹にあたる。 403番歌 訳文 「毎日毎朝見たいと思う、その玉を、どうすれば手から失わないようにできるだろう」 「毎日、始終見ていたいと思うその玉を、いったいどう…

291.巻三・401・402:大伴坂上郎女、族(うがら)を宴するする日に吟(うた)ふ歌一首と大伴宿禰駿河麻呂、即ち和(こた)ふる歌一首

吟(うた)ふ:節をつけて披露した歌。 401番歌 訳文 「山の番人がいたのも知らないで、その山にしるしを結んで、「結ひの恥」をしたことよ」 書き出し文 「山守の ありける知らに その山に 標結ひ立てて 結ひの恥しつ」 郎女が次女二嬢(おといらつめ)の婿…

290.巻三・400:大伴宿禰駿河麻呂が梅の歌一首

大伴宿禰駿河麻呂:大伴御行の孫か。橘奈良麻呂の乱に連座。巻三・400、402、407、409、巻四・646、648、653、654、655、巻八・1438、1660計11首を詠んでいます。 400番歌 訳文 「梅の花が咲いて散ってしまったと人はいいますが、私のしるしをつけておいた枝…

289.巻三・398・399:藤原朝臣八束(やつか)が梅の歌二首

八束、後の名は真楯、房前が第三子 藤原氏としては数少ない万葉圏の人。家持と心情の通うものがあった。 398番歌 訳文 「あなたの家に咲いている梅の花が、ええ、いつなりとも、実になる時にはお約束をしましょう」 書き出し文 「妹が家に咲きたる梅の何時も…

288.巻三・395・396・397:笠郎女の大伴宿禰家持に贈れる歌三首

395番歌 訳文 「託馬野(つくまの)に生えるという紫草で衣を染めるように、まだ着ないうちから、早くも人目についてしまいましたよ」 書き出し文 「託馬野に生(お)ふる紫草衣に染めいまだ着ずして色に出でにけり」 396番歌 訳文 「陸奥の真野の草原は、遠…

287.巻三・394:余明軍が歌一首

余明軍:官位、職分に応じて朝廷から賜る従者。ここは旅人の資人。主人が死ねば一年間服喪して後、解任される習いであった。 394番歌 訳文 「標を張ってわがものと決めた住吉(うみのえ)の浜の小松は、将来ともわが松だよ」 書き出し文 「標結ひて 我が定め…

286.巻三・393:満誓沙弥が月の歌一首

393番歌 訳文 「見られなくても誰が月を見たがらずにおられようか。 山の端のあたりで出かねている月をよそながらにも見たいものだ」 書き出し文 「見えずとも 誰れ恋ひずあらめ 山の端に いさよふ月を 外に見てしか」 月に深窓の女性を譬えて憧れる気持を詠…

285.巻三・392:太宰大監大伴宿禰百代が梅の歌一首

392番歌 訳文 「あの夜見た時あたりをつけた梅だったのに、ついうっかり手折らずに来てしまった。 いい梅だとおもっていたのに」 書き出し文 「ぬばたまの その夜の梅を た忘れて 折らず来にけり 思ひしものを」 その夜宴席で見そめた遊行女婦(うかれめ)を…

284.巻三・391:造筑紫観世音寺別当沙弥満誓(ざうつくしくわんぜおんべつたうさみまんぜい)が歌一首

観世音寺:観音寺に同じ 391番歌 訳文 「鳥総(とぶさ)を立てて足柄山で、船に使える良い木を、木樵がただの木として伐って行った。むざむざと伐るには惜しい、船に使える良い木だったのに」 書き出し文 「鳥総立て 足柄山に 船木伐り 木に伐り行きつ あた…

283.巻三・390:紀皇女の御歌一首

譬喩歌(ひゆか):万葉集の歌を表現の面から分類した部立の一つ。 巻三は雑歌、譬喩歌、挽歌からなっています。雑歌の次に390番歌から譬喩歌に入ります。 譬喩歌は人間の姿態・行為・感情を事物に譬えて述べた歌です。 相聞的内容の寓喩(ぐうゆ)の歌がそ…

282.巻三・388・389:羈旅(きりょ)の歌一首あわせて短歌

羈旅:旅の意、ここは公用の船旅での作。 388番歌 訳文 「海の神は霊威のあらたかな神だ。 淡路島を大海のまん中に立て置いて、白波を伊予の国までめぐらし、明石の海峡(せと)を通じて夕方には潮を満ちさせ、明け方には潮を引かせる。 その満ち引きの潮鳴…

281.巻三・385・386・387:仙柘枝(やまびめつみのえ)が歌三首

仙柘枝:吉野の漁夫味稲(うましね)が谷川で拾った山桑の枝が仙女と化し、その仙女と結婚した話が、「懐風藻」その他にある。その柘枝仙媛(つみのえやまひめ)に関する歌。以下三首は、宴席で歌われたものらしい。 385番歌 訳文 「吉志美が岳は険しくて草…

280.巻三・384:山部宿禰赤人が唄一首

384番歌 訳文 「わが家の庭にけいとうを蒔き育てて、それは枯れてしまったが、懲りずにまた種を蒔こうと思っています」 書き出し文 「我がやどに 韓藍(からあゐ)蒔き生ほし 枯れぬれど 懲りずてまたも 蒔かむとぞ思ふ」 韓藍(からあゐ)の現在の名はケイ…

279.巻三・382・383:筑波の岳に登りて、丹比真人国人が作る歌一首あわせて短歌

筑波の岳:茨城県の筑波山の意。 丹比真人国人:天平宝字元(757)年、橘奈良麻呂の乱に連座して伊豆に流された。 382番歌 訳文 「東の国に高い山はたくさんあるが、中でとりわけ、男神と女神のいます貴い山で二つの嶺の並び立つさまが心を引き付ける山と、…

278.巻三・381:筑紫の娘子、行旅(かうりよ)に贈る歌一首

娘子、字を児島といふ。 381番歌 訳文 「故郷(くに)を思うあまりにあせったりなさらないで。 風向きをよく見きわめていらっしゃい。 大和への路は荒うございますよ」 書き出し文 「家思ふと 心進むな 風まもり 好くしていませ 荒しその道」 965番歌から968…