万葉集の日記

楽しく学んだことの忘備録

477.巻五・沈痾自哀文(ちんあじあいぶん)山上憶良(八の一)

(八の一):長文ですの八分割しました。なお、歌ではないので、書き下し文は省略します。 沈痾自哀文:病いに沈み自ら悲しむ文。後の「俗道・・・」の漢詩文、「老身に・・・」の倭歌と三部作をなす。 訳文 「ひそかに思うに、朝夕山野で狩をして食べている…

476.巻五・894~896:好去好来(かうきょかうらい)の歌一首反歌二首

好去好来:無事に行き無事に帰ることを祈る歌。 894番歌 訳文 「神代の昔から言い伝えて来たことがある、この大和の国は皇祖の神の御霊(みたま)の尊厳な国、言霊が幸をもたらす国と、語り継ぎ言い継いで来た。このことは今の世の人も悉く目(ま)のあたり…

475.巻五・892・893:貧窮問答(びんぐうもんだふ)の歌一首あわせて短歌

貧者と窮者の対話。貧窮に関する問答ともいう。 892番歌 訳文 「風に混じって雨の降る夜、その雨に混じって雪の降る夜は、寒くて仕方がないので、堅塩をかじったり糟汁をすすったりして、しきりに咳きこみ鼻をぐずぐず鳴らし、ろくすっぽありもしないひげを…

474.巻五・886~891:熊疑のためにその志を述ぶる歌に敬和する六首併せて序 筑前国司山上憶良(三の三:887~891番歌)

886~891番歌は、山上憶良が熊疑になりきって詠んだ歌です。 887番歌 訳文 「母上の顔を見ることもできないで、暗い暗い心のまま、私はいったいどちらを向いてお別れして行くというのか」 書き下し文 「たらちしの 母が目見ずて おほほしく いづち向きてか …

473.巻五・886~891:熊疑のためにその志を述ぶる歌に敬和する六首併せて序 筑前国司山上憶良(三の二:886番歌)

886番歌 訳文 「都に上るとていとしい母の手を離れ、見たこともない他国の奥へ奥へと、山また山を越えて通り過ぎ、いつになったら都に行けるかと思いながら、よるとさわるとそのことを話題にしたが、我が身が大儀で仕方がないので、道の曲がり角に、草を手折…

472.巻五・886~891:熊疑のためにその志を述ぶる歌に敬和する六首併せて序 筑前国司山上憶良(三の一:序)

序の訳文 「大伴君熊疑は、肥後の国益城(ましき)の郡(こおり)の人である。年十八歳、天平三年の六月十七日に、相撲の部領使(ことりづかい)の国司官位姓名某(なにがし)の従者となり、奈良の都に向かった。しかし天運に恵まれず、苦しい旅道の半ばで病…

471.巻五・884・885:大伴君熊疑(おおとものきみくまごり)が歌二首 大典麻田陽春作

大伴君熊疑:次回記載予定の憶良作の序に説明があります。 大典:大宰府の文書を掌る官。826番歌参照。 麻田陽春:569~570番にも歌があります。 884番歌 訳文 「故郷を遠く離れた長い道中なのに、こんな所で、心も暗く今日この命を終えなければならないのか…

470.巻五・883:三島王(みしまのおほきみ)、後に松浦佐用姫の歌に追和する一首

三島王:舎人皇子の子、淳仁天皇の弟。 追和:帰京した旅人から871~875番歌を披露されて和したものか。この歌で旅人中心的な姿勢を示す巻五前半が終わり、次歌から憶良中心的な後半となる。 883番歌 訳文 「噂に聞いて目にはまだ見たことがない。佐用姫が領…

469.巻五・880~882:敢えて私懐(しくわい)を布(の)ぶる歌三首

敢えて:思い切って個人的な気持ちを述べる歌。「私懐」は、ここでは都への召還にたいする懇願をいう。 880番歌 訳文 「遠い田舎に五年も住みつづけて、私は都の風俗をすっかり忘れてしまった」 書き下し文 「天離(あまざか)る 鄙(ひな)に五年(いつとせ…

468.巻五・876~879:書殿にして餞酒する日の倭歌四首

書殿:図書や文書を置く座敷、ここは筑前国守憶良公館の座敷か 餞酒:ここは旅人送別の宴 倭歌:漢詩に対する日本の歌の意。天平初年には「倭」や「日本」を「大和」「和」と記した例はまだ見当たらない。 876番歌 訳文 「空を飛ぶ鳥ででもありたいものだ。…

467.巻五・874・875:最最後人の追和二首

最最後人:廻り持ちで詠まれた871~873番歌が最最後人に廻され、そこで閉じられる。「最最後人」は憶良と思われ、以下882番歌まで憶良の作と認められる。この部分に限って、題詞に歌の数が明記されている。 874番歌 訳文 「海原の沖を遠ざかって行く船に、戻…

466.巻五・873:最後人の追和

最後人:旅人と見る説もあるが、前歌の「後人」とは別の某別人で、やはり大宰府官人であろう。 873番歌 訳文 「万代の後までも語りつづけよとて、この山の嶺で領巾(ひれ)を振ったものらしい。松浦佐用姫は」 書き下し文 「万代(よろづよ)に 語り継げとし…

465.巻五・872:後人の追和

後人:旅人をさすという説もあるが、別人であろう。大宰府の官人か。 872番歌 訳文 「後の世の人も山の名として言いつづけよというつもりで、佐用姫はこの山の上で領巾を振ったのであろうか」 書き下し文 「山の名と 言ひ継げとかも 佐用姫が この山の上(へ…

464. 巻五・871

前文の訳文 「大伴佐堤比古郎子は、特に朝廷の命を受けて、御国の守り、任那に使いすることになった。船装いをして出発し、次第次第に青波の上を進んで行った。 ここに、妾(つま)の松浦佐用姫は、今忽ちにして別れ、いつまた逢えるかも知れぬことを深く嘆…

463.巻五・868~870:天平二年七月十一日 筑前国司山上憶良 謹上

訳文 「憶良が、誠惶頓首(せいくわとんしゅ) 謹んで申し上げます。 憶良が聞くところでは、「漢土では、昔から王侯をはじめ郡県の長官たるものは、ともに法典の定めに従って管内を巡行し、その風俗を観察する」ということであります。 それにつけても、こ…

462.巻五・866・867:君を思ふこと尽きずして、重ねて題す二首

君を:和だけでは思いやまずに歌った一連の纏め。 866番歌 訳文 「遠く遥かに思いやられます。白雲が幾重にも隔てている筑紫の国は」 書き下し文 「はろはろに 思ほゆるかも 白雲の 千重(ちへ)に隔てる 筑紫の国は」 867番歌 訳文 「あなたの旅は随分日数…

461.巻五・865:松浦(しょうほ)の仙媛の歌に和ふる一首

865番歌 訳文 「あなたをお待ちしている松浦の浦の娘子たちは、常世の国の海人の娘なのでしょうか」 書き下し文 「君を待つ 松浦の浦の 娘子らは 常世の国の 海人娘子かも」 旅人から送られた853~863番歌に和したもの。 唐招提寺の画像の続きです。 では、…

460.巻五・864:諸人の梅花の歌に和へ奉る一首

864番歌 訳文 「宴に加わることもできないでずっとお慕い申してなどおらずに、いっそのこと、あなたのお庭の梅の花にでもなった方がましです」 書き下し文 「後れ居て 長恋せずは 御園生の 梅の花にも ならましものを」 864番歌以下四首、吉田宜作。 旅人か…

459.巻五・都の宣から大宰府の大伴旅人に宛てた返書の訳文

「宣(よろし)申し上げます。 忝(かたじけな)くも四月六日付けの御書簡を拝受いたしました。 謹んで文箱を開き、芳章を拝読致しました。心が晴々して郎らかなことは、泰初が日月を懐にした気持そのままであり、卑しい思いが消えてさわやかなことは、楽広…

458. 巻五・861~863:後人の追和する詩三首 帥老(そちのおきな)

861番歌 訳文 「松浦川の川の瀬が早いので、娘子たちは紅の裳裾をあでやかに濡らしながら、鮎を釣っていることであろうか」 書き下し文 「松浦川 川の瀬早み 紅の 裳の裾濡れて 鮎か釣るらむ」 蓬客の855番歌に和した歌。 862番歌 訳文 「誰もかれもが見てい…

457.巻五・858~860:娘子らがさらに報ふる歌三首

858番歌 訳文 「若鮎を釣る松浦の川の川なみの、そのなみというような並々の気持で思うのでしたら、私はこんなに恋い焦がれることがありましょうか」 書き下し文 「若鮎釣る 松浦の川の 川なみの 並にし思はば 我れ恋ひめやも」 857番歌の「若鮎釣る」を承け…

456.巻五・855~857:蓬客のさらに贈る歌三首

蓬客:蓬のような卑しいさすらい人の意。812番歌の前文「蓬身」参照。以下三首の実作者は、854番歌までの歌を旅人から披露された某大宰府官人らしい。 855番歌 訳文 「松浦川の川瀬はきらめき、鮎を釣ろうと立っておられるあなたの裳裾が美しく濡れています…

455.巻五・853・854・ 松浦川に遊ぶ序

松浦川:佐賀県東松浦郡の玉島川 序の訳文 「私は、たまたま松浦の県をさすらい、ふと玉島の青く澄んだ川べりに遊んだところ、思いがけずも魚を釣る娘子たちに出逢った。 その花の顔は並ぶものがなく、光り輝く姿は比べるものもない。 しなやかな眉はあたか…

454.巻五・849~852:後に梅の歌に追和する四首

後に梅の歌に追和する四首:梅花の歌に追って和した意。作者は旅人らしい。 849番歌 訳文 「残雪に混じって咲いている梅の花よ、早々と散らないでおくれ。たとえ雪は消えてしまっても」 書き下し文 「残りたる 雪に交じれる 梅の花 早くな散りそ 雪は消(け…

453.巻五・ 847・848:員外、故郷を思ふ両歌

員外:梅の花三十二首の員数外の人の意。三十二首の末尾843~845などに刺戟されての旅人の作らしい。 847番歌 訳文 「私の男盛りはすっかり過ぎてしまった。飛行長生の仙薬を飲んでも、再び若返りはしまい」 書き下し文 「我が盛り いたくくたちぬ 雲に飛ぶ …

452.巻五・815~846:梅花の歌三十二首あわせて序(六の六:841~846番歌)

841番歌 訳文 「鶯の鳴く声をちょうど耳にしたその折しも、梅の花がこの我らの園に咲いては散っている」 書き下し文 「うぐいすの 音聞くなへに 梅の花 我家の園に 咲きて散るみゆ」対馬目高氏老 842番歌 訳文 「この我らの庭の梅の下枝を飛び交いながら、鶯…

451.巻五・815~846:梅花の歌三十二首あわせて序(六の五:835~840番歌)

835番歌 訳文 「春になったらぜひ逢いたいと思っていた梅の花だが、この花に今日のこの宴で、皆してめぐり逢うことができた」 書き下し文 「春さらば 逢はむと思ひし 梅の花 今日の遊びに 相見つるかも」薬師高氏義通 836番歌 訳文 「梅の花をてんでに手折り…

450.巻五・815~846:梅花の歌三十二首あわせて序(六の四:829~834番歌)

829番歌 訳文 「梅の花が咲いて散ってしまったらば、桜の花が引き続き咲くようになっているではないか」 書き下し文 「梅の花 咲きて散りなば 桜花 継ぎて咲くべく なりにてあらずや」薬師張氏福子 830番歌 訳文 「万代の後まで春の往来があろうとも、この園…

449.巻五・823~834:梅花の歌三十二首あわせて序(六の三:823~828番歌)

823番歌 訳文 「梅の花が散るというのはどこなのでしょう。そうは申しますものの、この城の山にはまだ雪が降っている。その散る花はあの雪なのですね」 書き下し文 「梅の花 散らくはいづく しかすがに この城の山に 雪は降りつつ」大監伴氏百代 824番歌 訳…

448.巻五・815~846:梅花の歌三十二首あわせて序(六の二:817~822番歌)

817番歌 訳文 「梅の花の咲き匂うこの園の青柳は美しく芽ぶいて、これも蘰(かずら)にできるほどになったではないか」 書き下し文 「梅の花 咲きたる園の 青柳は かづらにすべく なりにけらずや」少弐粟田大夫 818番歌 訳文 「春が来るとまっ先に咲く庭前の…